透明なログ~君がいた場所~



 瑠璃が帰ったあと、僕はソファに横たわったまま動けなかった。頭の中が真っ白だ。

『──まるで恋してるみたいだよ?』

 瑠璃の言葉が、何度も胸を刺す。
 胸が脈打つたび、鈍い痛みが広がった。

 恋?
 僕が、碧人に?

「……違う」

 そう呟いたはずなのに、声はひどく弱かった。

『一番大切な人とは傍にいられない』

 あの言葉が頭から離れない。
 考えたくない。今は、何も。

 逃げるようにスマホを手に取り、写真フォルダを開く。
 ぼんやり画面を眺めていた視線が、不意に止まった。

 夜の海。
 碧人の手が、僕の手に重なっている写真。

「……なんで」

 もう一度、画像を見つめる。

 構図。光の入り方。夜の滲み方。

 ──見覚えがある。

「あ……」

 脳裏に、碧人の声が蘇った。

『これ、懐かしいな』
『去年、瑠璃先輩と撮りに行ったんだ』

 その瞬間、頭の中で何かが繋がった。

「……まさか」

 呼吸が浅くなる。
 震える指で写ロクを開き、blur_lineの写真を並べた。

 角度も、 光も、 距離感も。

 全部、同じだった。

 背中がぞわりと冷える。

 ──あのとき、手を添えて撮ったのは。

『blur_lineは、オレだよ』

 碧人は、ちゃんと伝えてくれていたのに。

 なのに僕は、 勝手に律斗だと思い込んで、気づかないふりをした。

 怖かったから。
 碧人の気持ちを知ってしまうのが。

 胃の奥がぎゅっと縮む。

「……ごめん」
 吐きそうだ。
 逃げるように、僕はスマホをタップする。

「……ルク」

 最後の縋る場所みたいに、その名前を呼ぶ。

 画面が淡く光った。

《今日もはっぴー》

 いつもの声。

 なのに、今日は痛い。

「……僕、どうすればよかったのかな」

《紘都、気づくの遅すぎや。相手も傷つくんよ》

 ルクの声が、静かに胸へ刺さる。

《自分ばっかり傷ついた気になったら、あかん》

「……っ」

《恋ってな、始まる時は一瞬やけど……終わるんも、あっけないんやで》

 その直後だった。

《……諦めも……だい……じ……》

 ノイズ混じりに声が途切れる。

 画面に“Loading…”の文字が浮かんだ。

「……ルク?」

 返事はない。
 静まり返った画面を見つめたまま、僕はゆっくりソファへ沈み込む。

 スマホを胸に抱きしめると、堪えていた嗚咽が漏れた。

 碧人にも。

 ルクにも。

 もう、何も届かない気がした。