あまつさえ、愛だとか。


「俺、二階堂先輩の演出すごい好きなんです」



ザーザー降りの帰り道。
2つの傘を並べて歩く。
小さめの傘だからか腕が濡れて、そこだけ冷たい。



「…随分と急だね。嬉しいけど…どうしたの?」



二階堂先輩の動き方からして顔を隠しているような、そんな気がする。
傘が邪魔で顔がよく見えないのが焦れったい。
どんな表情をしているのか見たくて、隣をじぃっと見つめた。



「急じゃないです。今日のラストシーンとかも…キスする“振り”だってできたわけじゃないですか」



先輩は納得したように「あぁ」と頷く。
それと同時にはっきり顔が見えたけど、もう元に戻っていて。

なんだ…見たかったのに。

さっき保健室で見た余裕のない二階堂先輩が、今も容易く脳裏に浮かぶ。
けれど、初めて重ねた唇の柔らかさとか、溶けてしまいそうなほどの甘い空気とか…そんなものまで思い出してしまった。

…っ自爆してどうする。
今は普通に、そんな空気じゃないんだからキスなんてしないだろ。
っていうか、別にキスがしたいわけじゃなくて…なんだろ。
あの、俺を愛しいと言ってるみたいな顔で見つめられるのが、なんだかたまらなく…



「そこはほら、やっぱり見てくれる人たちがいてこその作品だから。人それぞれの解釈と想像を含めてのものにしたくて───」



──ちゅっ



「っん、…!!」



気づけば奪われていた右手と、ほんのり濡れた唇。
下から覗き込む二階堂先輩の、意地悪な顔たるや。



「なっ…んで、今…ここ、外っ…」


「だって…して欲しそうな顔してたから?」


「っ…!!」



ザーザー降りの帰り道。
並んでいた2つの傘は、大きな1つの傘になって。



「…もっかい、だめ?」


「…だめ、って言ってもするんでしょ」


「うん、ご名答」



濡れて冷たくなっていたはず腕も気にならないくらい、身体中が心から温かいと感じた。

きっともうすぐ梅雨が明けて、夏が来る。
俺たちの関係とともに、季節が巡って移り変わる。

それでもずっと…先輩の見る世界を見て、あわよくば俺もその瞳に映っていたい。



「編集…俺も手伝いたい。二階堂先輩が見てる景色を、俺にも見せてください。…いいですか?」


「うん…嬉しい。ありがとう」



これからもあなたの隣で、そんな幸せを願わせて。