あまつさえ、愛だとか。


今思えば心当たりしかない。
でも、だからって…こんなことあるだろうか。
放課後の保健室で、二階堂先輩と2人きり。
先程から降り出した雨音だけが響くこの狭い空間で。
うるさく鳴って仕方ないこの胸の音が、隣に聞こえないかとか変なことばかり気にしてしまう。
抑えるのは目元だけじゃ足りなくて。



「…そんなに、帰りたい?」



────きっともう、誤魔化しきれない



「…っずるい…そんな、聞き方…」



ずっと我慢していたものがこみ上げてきて、そのまま漏れる。
ちらりとすぐ横を見れば、不服そうな二階堂先輩の顔。



「…そんなこと言ったら、戸張くんのがずるいよ」


「っはぁ?俺のどこが…」



それに反発してやろうと思ったけれど、阻まれた。
瞬く間に世界が反転して、俺の目には二階堂先輩しか映らなくなったから。

っ…知らない…。
その顔は、なんだ。

俺を見下ろす余裕のない顔。
ぎゅう、ときつく胸が絞られていく。



「に、かいどうせんぱ───」


「戸張くんのあんな顔、みんなに見せたくなかった。ずっと“役だから”って閉じ込めてた思いが、溢れて、止まらなくなった。笑った顔も呆れた顔も、泣き顔だって全部ぜんぶ、独り占めしたいって思うんだよ」



でも、この瞳にずっと映して欲しい。
捕えて離さないでいて欲しいとさえ思うのは。
無性に抱き締めたくなるこの気持ちは、きっと───



「戸張くんが、好きだから」



二階堂先輩が、好きだからだ。