あれだけ啖呵を切っておいてこのザマだ。
おまけに今日も懲りずここに来て、俺はいったいなにがしたいんだろう。
舞台演劇を見に行って、2人きりの夜道を歩いた日から2週間が経った。
気づけば俺の頭の中には、いつも二階堂先輩がいる。
カメラの前にいてもいなくても、それは変わらない。
移動教室のとき、先輩が体育のとき、昼休み中購買に行くとき…自然と目が先輩を探していて。
偶然見つければ嬉しい。
その場で声を出して、振り向いて欲しいだなんて思う。
なのに、目が合いそうになった瞬間、ふいと目を逸らしてしまう。
そしてまた目で追えば、その姿はなくなっていて。
「…行くか」
だから、今日もカメラの前に立つ。
そうすれば、理由なんてものがなくともあの人の目に映ることができるから。
机の上に置かれた鍵を手に取り、踵を返して部室を出た。
今日は薄曇り。
『五月雨の懸想』は、ラストシーンを迎える。
*
校舎を出て中庭に向かっていると、そこら中に水溜まりが見えた。
紫陽花の葉から落ちる雨粒が、ぽちゃんと音を立てる。
分厚い雲から覗く日差しがやけに眩しい。
「はぁー…なんで今日に限ってこんなジメジメすんのかね。せっかくのラストなのに」
先に着いていた松本が、汗を拭いながら台本片手にぼやく。
ぴたりとシャツが肌に纏わりついて、たしかに気持ち悪いことこの上ない。
だるそうな松本を横目にポケットからハンカチを取り出すと、黒田先輩が「そりゃそうだ」と現れた。


