「っ…」
きゅうっ、と、心臓が絞られる感覚に陥る。
先輩の口から語られる追憶を、俺はどう受け止めればいい…?
二階堂先輩が、どんな思いで俺をあの舞台に連れて行ってくれたのか…ずっと考えていた。
喫茶店で、俺と同じことを思ったと言っていた姿が頭によぎる。
でも、それは、全部前置きで────
「少しは気持ちの動かし方も身についたけど…今こうして芝居をしていないのは、つまりそういうこと。まあ…結局、向いてなかったんだよね。」
二階堂先輩の、弱くて脆いところを…俺に話すためだったんじゃないのか。
そのために、こうして時間を作ってくれている。
なのに俺は、それに気づかないでずっと…?
「っ向いてなかったなんて、そんなっ…こと」
“ない”と、言い切りたかった。
けれど、それは二階堂先輩の人差し指が許してくれなかった。
「ありがとう。でも…そんな顔しないで?…俺ね、戸張くんに感謝してるんだよ」
骨ばった細くて長い指が唇に触れている。
目の前で弧を描く薄い唇に、目を奪われた。
「ど…うゆことですか───っ!」
離れていく指の行方を目で追って、後悔した。
「いつも我慢して閉じ込めている感情を、いつも戸張くんが無作為に引っ張り出す。そのとき俺は、どの瞬間よりも“自分だ”って思えるんだ。それが…たまらなく嬉しい」
ちゅ、と音を立てて人差し指に口付ける二階堂先輩。
今はどこも触れられていないのに、なぜか自分の唇が熱くなって、一気に頬まで広がってゆく。
気づけば俺は、口元をおおっていた。
甘く痺れたこの空気に、酔ってしまいそう。


