夢の中の少女

 父の部屋をノックする。少し間があいて

「どうぞ」と声がした。

 僕が部屋に入ると、驚いたように父が僕を見つめた。

「父さん、話があります」

「なんだ、朝っぱらから?」——機嫌が悪そうな声、だがこれも父の逃げなんだと思うと、僕は驚くほど落ち着いて次の言葉を話し始めていた。

「この写真の右に写っていたのが、旧姓伊藤優美さんと、僕の双子の妹の優希ですね?」

 その瞬間、明らかに父の顔色が変わった。

「お前の母さんはもういないと、昔言ったろ。そんな人は知らん」

「昨日、僕は、二人の家に行きました」

 それを聞いて、父は怯えたような表情を浮かべた。昔から怖かった父が、今はもう全く怖くなく小さく見えた。

「優美に会ったと言ったな、いったいどうやって? 偶然会ったのか? それとも向こう
 が探してきたのか?」


「質問に答えてください。ずっと僕には聞かれたことに答えなさい、そう言って何度も叱ってこられましたよね?」

 僕がそういうと、父は、首を振って視線を足元に落とし、やがて覚悟を決めたのかこちらを見て言った。

「そうだ、お前の母さんと妹と4人で撮った写真だ」

「どうして母さんと妹は家を出て行くことになったのか、本当のことを教えてくださいますか?」

「仕方なかったんだ……」膝を落として床に座り込む父は、驚くほど小さく見えた。

 母が仕事に行ってる間に、祖父母に放置されて熱に気付かれず放置された妹の話を聞いた時、僕の血が煮えたぎった。

「どうして父さんは何もしなかったんですか?」

「まだ会社を継いだと言ってもじいさんの影響が大きくて、父さんも逆らえなかったんだ」

「母さんが優希を連れて出て行ったのは当然ですね、一緒に母さんと僕を連れて家を出ればよかったんですよ」

 そう言って僕は一度言葉を切って父を見つめた。

「僕が志望校に合格したら、寮に入ります。僕はこの家で、二人のような大人にはなりたくない。父さん、それだけは味方してくださいますか?」


「将来はどうするつもりだ? 私としては会社を継いでほしいと思っているが……」

 父の顔が、ちゃんとした大人の顔に戻ったのがわかった。

「今はまだわかりません。元はここから逃げるためだけに進学を考えていましたから、これからやりたいことをみつけたいと思います。会社を継ぐこと、それも含めて自分が何をやりたいのか、高校生活の中で見つけて行きたいと思います」

 僕は父の顔を正面から見つめて、自分の考えを正直に話す。

「わかった、すまなかった……その……優美と優希は元気だったかい?」

「ええ、とても、二人だけどこことは違う、よい家庭でしたよ」

 僕はそう言い残すと部屋を出た。あえて祖父母と話すことはしなかった。あの二人には何を言っても無駄なことはわかっていたから。