夢の中の少女

 小学校に行く前からなのは間違いない。その頃の僕はただその夢が楽しくて、そんな風に続く夢があることに疑問を持つこともなかった。

 彼女が話してくれる母親の話が僕はとても好きだった。それは自分には存在しない、優しい母親像というものを僕に教えてくれた。

 そして、彼女は僕の逆で母子家庭で、僕の父親の話を聞きたがったが、彼女の話す母親の話のようなエピソードは僕と父の間には何もなく、ずっと仕事ばかりでほとんど話をしたこともないと話すと、彼女は随分驚いていた。

 彼女と話す夢は毎日見られるわけではないが、その夢を見た日は、朝から元気でいられた。空虚な自分の毎日が少しだけ色鮮やかに見える気がした。


 中学三年の夏、僕は都会の予備校へ通うことになった。

 朝早く家を出て夜に帰る日々で、帰宅時間もばらばらになった。結果、駅について公衆電話から父を呼び出すことになった。

 それで事前に電車内から到着の時間を知らせることができるようにと、父がスマホを買ってくれることになった。

 早い子は小学生から持たせてもらっていたものだが、僕はこれまで許されなかった。必要が生まれたから仕方なくという形であるが、息の詰まる家の中で、外の世界と繋がれるスマホは、僕にはとても嬉しいものに感じられた。


 そんな嬉しかったせいだろうか、夜に見た夢の中で、僕は優希にそのことを喜んで話してしまう。今思えば、そこから僕の世界は変わっていったのだ。

「聞いてよ、優希。僕ね、やっとスマホを買ってもらったんだよ」

「そうなんだ、ずっと欲しがってたものね、よかったね祐希」

「夏休みだから、友達は誰もまだアドレスに入ってなくて今は家族だけだけど、2学期になったら、友達の連絡先も入れたいと思っているんだ」

「じゃあ、私のを最初に入れてよ、番号は○○○よ」

 ふと気付くと手に自分のスマホを持っていたので、僕は最初の友達として、優希の番号を登録した。

『最初の友達になってくれてありがとう優希』

『私こそ、光栄だよ』

 僕と優希は、夢の中で笑い合った。優希の笑顔は僕の心をあたたかくしてくれる。
 
 それに気付いて、今は友達だけど……思春期の僕は、その先を想像して少し顔を赤くした。

 夢の中だというのに……自分では、きっとそれとわからないものなのだろう。


 翌朝、起きてスマホをなんとなく確認してみる。父と家の番号だけのアドレス帳。

 僕は何気なく起きてもなお指の動きを覚えていた優希の番号を登録してみた。

 夢の相手でも繋がれたみたいで、その日はそれで嬉しくなった。