幼い頃に初めてテレビ越しにイルカを見た日のことをよく覚えている。優雅に泳ぐ美しい姿に夢中になった。
5月の放課後。美化委員の俺は、回収されたゴミを燃やすため、人目のつかない校舎裏の焼却炉にいた。
「あちぃ…。これで最後かな」
全て燃やし終えて、校舎に戻ろうと歩いていると、
…バシャッ
プールの方から水の音がした。
あれ、誰か泳いでんのかな。こっちの第二プールは、授業でしか使われないはずだけど。
プールへ続く階段を登り、プールサイドに立ち入ると、1人で泳ぐ男子がいた。
「…!」
ブルーに輝くプールの中で泳ぐ姿は、まるでイルカのようだった。その美しさに、1秒たりとも目が離せなかった。
その男子は、プールの中から出てくると俺の方に向かって歩いてきた。
ーここの生徒かな。背高いな…いや、俺が低いだけか。
ゴーグルを取ったその顔立ちは、かっこいいというよりも、綺麗という言葉の方が似合っていた。
「何か用ですか?」
「あ、いや、たまたま通りがかって…。ごめん、練習の邪魔しちゃって」
「いえ、大丈夫です」
そう言いながらスイムキャップを脱ぐと、前髪にかかる長さの黒髪から水がポタポタとしたたれた。
…ドキッ
「俺、隣町の高校に通ってるんですけど、今月からプールの改修工事が始まったんで、放課後にここのプール借りることになったんです」
「そうだったんだ。何年生?俺は3年」
「1年です」
「そっか。他の部員は来ないの?」
「部員、俺だけなんで」
「え、まじか!」
「去年までいたみたいですけど、卒業したり辞めたりで、俺が入学した時にはゼロでした」
「廃部になりかけてたんだなぁ。誰もいなくても入部するって…お前、泳ぐの好きなんだなっ!」
それから暇な放課後はあいつのいるプールへ行き、練習終わりに一緒に寄り道しながら帰るようになった。
「え、彼女いないの!?」
「はい」
「すげー意外。あれか、水泳のことしか頭にないタイプか!」
うちの学校の女子がこいつの存在を知ったら、毎日プールサイドが人で埋め尽くされるだろうな。
第二プールは、用がなければわざわざ来ない場所にあるし、出入りは裏門からしているから他の生徒に見られることはほぼない。
チラッ…
…良かった。このまま俺だけの秘密でいてほしい…なんてこんな気持ちバレたらまずいけど。
「先輩は、いないんですか?」
「俺?モテないんだよー。友達としか見れないってよく言われる」
「周りの女子は、先輩の良さを知らないんでしょうね」
「へ?」
深い意味はないんだろうけど、嬉しくなること言うよなぁ。
…お前の泳ぐ姿も、その声も、冷たいようで優しい性格も、全部好きだなんて死んでも言えないけど…俺もお前の良さたくさん知ってるよ。
物心ついた頃には、男が好きだった。それが周りと違うことは幼いながらに分かっていた。ゲームやスポーツが好きで、女の子らしい格好をしたいわけじゃない。話が合うのも男友達だ。どこにでもいる男子高校生。ただ、恋愛対象が男だって話。たったそれだけなのに、誰にも言えず息が苦しくなる。
気がつけば7月。期末テストも終わり、このプールであいつが泳ぐのも今日が最後。
プールに足をつけ、あいつの泳ぐ姿をぼーっと見ていた。
青い空とブルーに染まるプール、そしてイルカみたいなあいつ。映画のワンシーンみたいな光景を一人占めしている。それだけで十分なのに、叶いもしないそれ以上のことを望んでしまう自分がいる。
しばらく泳いだあいつが、スイムキャップを脱ぎ、スーッとプール脇まで近づいてきた。
「暇ですか?」
「全然。お前の泳ぐとこ見てて飽きないし。それにこうやって会うのも今日が最後だしなぁ」
「プールで会わなくても、普通に遊びに行ったりしましょうよ。俺、部活ない日は暇なんで」
「おう、そうだな!」
「…先輩も泳ぎますか?」
「え、今日水着持ってきてな…」
ぐいっ…
「うわぁっ!」
…バシャーンッ!!
腕を引かれ、プールに飛び込んだ。水の中だと制服がやけに重い。
「もぉ、びっくりするじゃん」
「あはは、すみません」
「…。」
目の前にいるこの距離…近いな。というか、まだ腕を掴まれているまま…。
ドキドキ…
「先輩って俺のこと…恋愛として好きですよね?」
ドキッ
「…は…いや、そんなことっ…」
視線を逸らしても、切れ長の目がこっちをじっと見ている。自分の顔がどんどん赤くなっていくのが分かった。
「もし違うなら振り払ってください」」
腕を掴んでいたあいつの手は、ゆっくりと俺の手に移り、指を絡ませる。
ードクンッ…
こいつも同じ気持ちなんだろうか。
緊張しながら徐々に目線を上に向けると目が合った。
「一緒に溺れましょう」
…ぎゅっー…
あぁ…溺れてるのに、すげぇ息がしやすい。
5月の放課後。美化委員の俺は、回収されたゴミを燃やすため、人目のつかない校舎裏の焼却炉にいた。
「あちぃ…。これで最後かな」
全て燃やし終えて、校舎に戻ろうと歩いていると、
…バシャッ
プールの方から水の音がした。
あれ、誰か泳いでんのかな。こっちの第二プールは、授業でしか使われないはずだけど。
プールへ続く階段を登り、プールサイドに立ち入ると、1人で泳ぐ男子がいた。
「…!」
ブルーに輝くプールの中で泳ぐ姿は、まるでイルカのようだった。その美しさに、1秒たりとも目が離せなかった。
その男子は、プールの中から出てくると俺の方に向かって歩いてきた。
ーここの生徒かな。背高いな…いや、俺が低いだけか。
ゴーグルを取ったその顔立ちは、かっこいいというよりも、綺麗という言葉の方が似合っていた。
「何か用ですか?」
「あ、いや、たまたま通りがかって…。ごめん、練習の邪魔しちゃって」
「いえ、大丈夫です」
そう言いながらスイムキャップを脱ぐと、前髪にかかる長さの黒髪から水がポタポタとしたたれた。
…ドキッ
「俺、隣町の高校に通ってるんですけど、今月からプールの改修工事が始まったんで、放課後にここのプール借りることになったんです」
「そうだったんだ。何年生?俺は3年」
「1年です」
「そっか。他の部員は来ないの?」
「部員、俺だけなんで」
「え、まじか!」
「去年までいたみたいですけど、卒業したり辞めたりで、俺が入学した時にはゼロでした」
「廃部になりかけてたんだなぁ。誰もいなくても入部するって…お前、泳ぐの好きなんだなっ!」
それから暇な放課後はあいつのいるプールへ行き、練習終わりに一緒に寄り道しながら帰るようになった。
「え、彼女いないの!?」
「はい」
「すげー意外。あれか、水泳のことしか頭にないタイプか!」
うちの学校の女子がこいつの存在を知ったら、毎日プールサイドが人で埋め尽くされるだろうな。
第二プールは、用がなければわざわざ来ない場所にあるし、出入りは裏門からしているから他の生徒に見られることはほぼない。
チラッ…
…良かった。このまま俺だけの秘密でいてほしい…なんてこんな気持ちバレたらまずいけど。
「先輩は、いないんですか?」
「俺?モテないんだよー。友達としか見れないってよく言われる」
「周りの女子は、先輩の良さを知らないんでしょうね」
「へ?」
深い意味はないんだろうけど、嬉しくなること言うよなぁ。
…お前の泳ぐ姿も、その声も、冷たいようで優しい性格も、全部好きだなんて死んでも言えないけど…俺もお前の良さたくさん知ってるよ。
物心ついた頃には、男が好きだった。それが周りと違うことは幼いながらに分かっていた。ゲームやスポーツが好きで、女の子らしい格好をしたいわけじゃない。話が合うのも男友達だ。どこにでもいる男子高校生。ただ、恋愛対象が男だって話。たったそれだけなのに、誰にも言えず息が苦しくなる。
気がつけば7月。期末テストも終わり、このプールであいつが泳ぐのも今日が最後。
プールに足をつけ、あいつの泳ぐ姿をぼーっと見ていた。
青い空とブルーに染まるプール、そしてイルカみたいなあいつ。映画のワンシーンみたいな光景を一人占めしている。それだけで十分なのに、叶いもしないそれ以上のことを望んでしまう自分がいる。
しばらく泳いだあいつが、スイムキャップを脱ぎ、スーッとプール脇まで近づいてきた。
「暇ですか?」
「全然。お前の泳ぐとこ見てて飽きないし。それにこうやって会うのも今日が最後だしなぁ」
「プールで会わなくても、普通に遊びに行ったりしましょうよ。俺、部活ない日は暇なんで」
「おう、そうだな!」
「…先輩も泳ぎますか?」
「え、今日水着持ってきてな…」
ぐいっ…
「うわぁっ!」
…バシャーンッ!!
腕を引かれ、プールに飛び込んだ。水の中だと制服がやけに重い。
「もぉ、びっくりするじゃん」
「あはは、すみません」
「…。」
目の前にいるこの距離…近いな。というか、まだ腕を掴まれているまま…。
ドキドキ…
「先輩って俺のこと…恋愛として好きですよね?」
ドキッ
「…は…いや、そんなことっ…」
視線を逸らしても、切れ長の目がこっちをじっと見ている。自分の顔がどんどん赤くなっていくのが分かった。
「もし違うなら振り払ってください」」
腕を掴んでいたあいつの手は、ゆっくりと俺の手に移り、指を絡ませる。
ードクンッ…
こいつも同じ気持ちなんだろうか。
緊張しながら徐々に目線を上に向けると目が合った。
「一緒に溺れましょう」
…ぎゅっー…
あぁ…溺れてるのに、すげぇ息がしやすい。



