「おはよう、麻衣ちゃん。ここが、どこだかわかるかな?」
お医者さんらしい白衣を着てるおじさんに、顔を覗かれる。
顔を動かそうと思ったけれど、頭がとても重くて、全然動かなくて、私はとりあえず目だけを動かすことにした。
なぜだか、そばにいるお母さんは泣いている。
せっかくお母さんが起きてほしいというから起きたのに、何で泣いているんだろうと不思議に思いながらも、私はただここでぼんやりとしながら寝ていることしかできなかった。
(喋れない)
喋り方も忘れてしまった。
そういえば、私はどうして病院にいるんだろう?
どうしてベッドで寝ているんだろう?
色々と考えようとするけれど、だんだんと頭の中に靄がかかってきてわからなくなる。
(眠たい)
睡魔に導かれるように私は再び目を閉じると、また暗い暗い海の底に沈んでいった。
◇
「麻衣」
今度はお父さんの声だ。
ゆっくりとまた、ぷかぷかと意識が浮上する。
目を開けると、そこには疲れたような顔をしたお父さんがいた。
「麻衣、あぁ、麻衣! ごめんな、……ごめんっ!」
お父さんがくしゃくしゃな顔で、見たこともないほど泣いていることにびっくりした。
でも、何でお父さんが謝るんだろう。お父さん、何か悪いことしちゃったのかな。
そういえば、お父さんもお母さんも、いつのまにかすごい年を取った気がする。不思議。これも夢だろうか。
夢、だったらいいのにな。
(2人とも悲しい顔してる)
起きちゃいけなかったのかな。でも、起きて欲しいって言ったの、お母さんなのに。変なの。
(あれ、誰だろう)
視線の端に映る二人。
遠くの出入り口から、こちらをそっと見てる女の人と女の子。ぼんやりとしか見えないからよくわからないけど、女の子はなんとなく私に似ている気がする。
そんなことを考えてると、また頭の中に靄がかかる。
(次はもっと起きてたいな)
そう思いながら、私はまた睡魔にこまねきされるがまま、コポコポと暗い海の底に沈んでいった。
◇
「おはよう、麻衣」
浮き上がるタイミングが段々と短くなって、起きる時間も少しずつ長くなってきた。
「お、はよう。おか……ぁさん」
あぁ、思い出した。こうやって声を出すんだ。
私は声の出し方を思い出し、掠れながらも精一杯ゆっくりと話すと、お母さんはまた泣いて「おはよう、おはよう」と声が切れ切れながら、いっぱい「おはよう」と言って抱きしめてくれた。
お母さんに抱きしめられるなんて、いつぶりだろう。
恥ずかしくて苦しくて照れ臭かったけど、すごく嬉しかった。
「はい、あーん」
食べさせてもらったのなんて、いつが最後だったかな。赤ちゃんの頃かな? なんか恥ずかしいけど、腕はまだ持ち上がらないし、最初はお腹がびっくりしちゃうからって、ほんのちょっとだけスープを飲む。
お母さんは嬉しそうに「美味しい?」って聞いてくれるのを、あんまり美味しいかどうかよくわからなかったけど、とりあえず頷いておいた。
「あり、が、とう」
「どういたしまして」
本当にお母さんはびっくりするくらい、すぐに泣くようになった。涙が出過ぎて、干からびちゃうんじゃないかと心配になる。
「お、父さん、は?」
そういえば、お父さんには前に会ったっきりで会えていないなーと思って聞いてみたけど、失敗だったのかもしれない。
お母さんは急に悲しい顔になった。
「お父さんは、お仕事が忙しいのよ」
「そ、う」
お母さんは嘘が下手だ。
お母さんは嘘をつくときにいつも鼻を触る癖があるのを私は知ってる。
でも知ってるからって、何も言えなかった。だから私は気づかないフリをした。
「また明日来るからね」
「うん。また、ね」
本当は手を振りたいけど、まだそこまで元気はなくて。なるべくにっこり笑うように言ったら、お母さんもにっこりと笑ってくれた。
それが、とても嬉しかった。
お医者さんらしい白衣を着てるおじさんに、顔を覗かれる。
顔を動かそうと思ったけれど、頭がとても重くて、全然動かなくて、私はとりあえず目だけを動かすことにした。
なぜだか、そばにいるお母さんは泣いている。
せっかくお母さんが起きてほしいというから起きたのに、何で泣いているんだろうと不思議に思いながらも、私はただここでぼんやりとしながら寝ていることしかできなかった。
(喋れない)
喋り方も忘れてしまった。
そういえば、私はどうして病院にいるんだろう?
どうしてベッドで寝ているんだろう?
色々と考えようとするけれど、だんだんと頭の中に靄がかかってきてわからなくなる。
(眠たい)
睡魔に導かれるように私は再び目を閉じると、また暗い暗い海の底に沈んでいった。
◇
「麻衣」
今度はお父さんの声だ。
ゆっくりとまた、ぷかぷかと意識が浮上する。
目を開けると、そこには疲れたような顔をしたお父さんがいた。
「麻衣、あぁ、麻衣! ごめんな、……ごめんっ!」
お父さんがくしゃくしゃな顔で、見たこともないほど泣いていることにびっくりした。
でも、何でお父さんが謝るんだろう。お父さん、何か悪いことしちゃったのかな。
そういえば、お父さんもお母さんも、いつのまにかすごい年を取った気がする。不思議。これも夢だろうか。
夢、だったらいいのにな。
(2人とも悲しい顔してる)
起きちゃいけなかったのかな。でも、起きて欲しいって言ったの、お母さんなのに。変なの。
(あれ、誰だろう)
視線の端に映る二人。
遠くの出入り口から、こちらをそっと見てる女の人と女の子。ぼんやりとしか見えないからよくわからないけど、女の子はなんとなく私に似ている気がする。
そんなことを考えてると、また頭の中に靄がかかる。
(次はもっと起きてたいな)
そう思いながら、私はまた睡魔にこまねきされるがまま、コポコポと暗い海の底に沈んでいった。
◇
「おはよう、麻衣」
浮き上がるタイミングが段々と短くなって、起きる時間も少しずつ長くなってきた。
「お、はよう。おか……ぁさん」
あぁ、思い出した。こうやって声を出すんだ。
私は声の出し方を思い出し、掠れながらも精一杯ゆっくりと話すと、お母さんはまた泣いて「おはよう、おはよう」と声が切れ切れながら、いっぱい「おはよう」と言って抱きしめてくれた。
お母さんに抱きしめられるなんて、いつぶりだろう。
恥ずかしくて苦しくて照れ臭かったけど、すごく嬉しかった。
「はい、あーん」
食べさせてもらったのなんて、いつが最後だったかな。赤ちゃんの頃かな? なんか恥ずかしいけど、腕はまだ持ち上がらないし、最初はお腹がびっくりしちゃうからって、ほんのちょっとだけスープを飲む。
お母さんは嬉しそうに「美味しい?」って聞いてくれるのを、あんまり美味しいかどうかよくわからなかったけど、とりあえず頷いておいた。
「あり、が、とう」
「どういたしまして」
本当にお母さんはびっくりするくらい、すぐに泣くようになった。涙が出過ぎて、干からびちゃうんじゃないかと心配になる。
「お、父さん、は?」
そういえば、お父さんには前に会ったっきりで会えていないなーと思って聞いてみたけど、失敗だったのかもしれない。
お母さんは急に悲しい顔になった。
「お父さんは、お仕事が忙しいのよ」
「そ、う」
お母さんは嘘が下手だ。
お母さんは嘘をつくときにいつも鼻を触る癖があるのを私は知ってる。
でも知ってるからって、何も言えなかった。だから私は気づかないフリをした。
「また明日来るからね」
「うん。また、ね」
本当は手を振りたいけど、まだそこまで元気はなくて。なるべくにっこり笑うように言ったら、お母さんもにっこりと笑ってくれた。
それが、とても嬉しかった。



