「! やった! お母さん、合格したよ!!」
「麻衣! おめでとう! 今日はお祝いしなくちゃね!」
あれから、一年ちょっとで高認試験に受かることができて、お母さんとスマホに表示された合格の文字に大喜びした。
早希とはお母さんとの喧嘩のあとすぐに連絡を取って、今まで勝手に理不尽なことで怒っていたことを全部打ち明けた。そうしたら「まだ中身は十才だもんね。少しずつレベルアップすれば大丈夫」と許してくれた。
そして、高認試験のことも発表後に伝えると、自分のことのように喜んでくれて、とても嬉しかった。
ちなみに、早希も先日無事に司書の資格が取れて、臨時職員という感じだが司書として働き始めたそうだ。
あのときのいざこざというか、私が一方的にヤキモチを妬いて逆恨みしてしまったのに、早希の優しさのおかげで関係はある程度修復できたと思う。現在もそれなりに仲良くさせてもらっているが、今度は距離感を間違えないようにと自制するように心がけている。
また、お母さんはあれから、意中の人とは仲良くしているらしい。紹介してよ、と言ってはいるのにまだなんとなく踏ん切りはついていないらしく、先送りにされたままだ。
でも、教えてはくれないもののそれとなく雰囲気的にはいい関係が築けているようで、娘としては嬉しく思っている。
お父さんとは、頻繁ではないけれどちょこちょこと連絡を取るようにはなった。私が昏睡状態での離婚・再婚だったから、私からの心象が悪いだろうとあえて今まで自分から連絡は取らなかったそうだ。
正直、その言い訳ズルくないかとまだちょっとお父さんとは打ち解け切れていない。でも、以前に比べたら誕生日や入学式のときなど、行事があるときは連絡を取り合えるようになっていて、ぎこちないながらも言葉を交わせている。
そして現在の私はといえば、今は現役の大学生である。
高卒認定試験に受かったあと、高卒での就活を最初は考えていたものの、お母さんから「十年分の青春を取り戻してきなさい」とのことで、大学に進学することにした。
お金のことは正直心配だったけど、「そのためにお母さんはあくせく働いてきたのだから、任せなさい!」と胸を張って言われてしまって、そこはお母さんに甘えることにした。実際、私が勉強している間に忙しくなったのは、そういうことを考えての行動だったらしい。
(本当に、お母さんには頭が上がらないな)
そして高卒認定試験合格後からさらに一年受験勉強をし、見事に国立の大学に合格することができた。
そのときはお母さんだけじゃなくて、お父さんや早希にもお祝いしてもらった。
大学に入ってからは、自分が学びたいことを学べるということがとても楽しかった。私はやはり物語が好きなので文学部の言語科を専攻していたのだが、ゼミの教授から「とにかく一度書いてみたら?」と言われて拙いながらも物語を書いてみることにした。
タイトルは「タイムリープ10years」
主人公は何の変哲もない女の子。
彼女は「早く大きくなりたい」と願ったことで、十年後にタイムリープするという話だ。
「持田さんのその話、面白いよね」
PCルームで黙々と執筆作業をしていると、急に声をかけられてドキッとする。顔を上げると同じゼミの加賀見くんがいた。
加賀見くんは同じ三年生だけど、現役で入学しているから、私よりは年下だ。見た目はチャラくて軟派そうな男の子なのに、実は両親を亡くして奨学金でこの大学に通っている。いわゆる苦学生である。
「急に話かけないでよ。びっくりするじゃん」
「ごめんごめん。驚かすつもりなかったんだけどさ。思いのほか集中してたんだねー」
「私、何かに没頭すると時間忘れるタイプだから」
「なるほどね。確かによく時間ギリギリまで教室いたり、閉館時間まで図書室いたりするよね」
まさかそんな詳しく知られているなんて思わなくて、なんとなく羞恥心を感じる。
というか、そもそも加賀見くんは他の人に比べてすごく距離が近い。私の境遇にも偏見も持たずに「そういう人生もあるよねー」って言って、どんどん距離を縮めてくるのに私はどうしたらいいのかよくわかっていなかった。
「てか、もうすぐPCルーム閉じるってよ」
「え、そうなの?」
「そうそう、ほらポータルで通知来てたよ。校内清掃入るから今日は早めにPCルームを閉めるって」
「全然知らなかった」
「ダメだねー。ちゃんと確認せねばならんよ!」
聞き覚えのある声真似に、思わず吹き出して笑ってしまう。
「はは、それ松村教授の真似?」
「似てる? てか、せっかくだし持田さん一緒帰ろうよ。確か、方向一緒だったよね。あとよかったら、ついでにお茶でもどう?」
「えー、急にどうしたの?」
「持田さんとお近づきになりたくてさ」
「何それー」
冗談なのか本気なのか、私にはまだ判断つくほどの場数は踏んでいない。でも、みんなそれぞれ生い立ちや性格、感情等々人によって違ってそれぞれ表と裏があることはちょっとずつ理解しているつもりだ。
私はPCの電源を落とすと、USBを片付けて席を立つ。
「じゃあ、今日は加賀見くんの奢りね」
「え、マジで一緒に帰ってくれるの? もちろん、オレが誘ったんだし奢る奢る!」
冗談で言ったつもりなのにまさか乗り気になるとは思わず、私は加賀見くんに何て図々しい女だと思われないかと焦って、一生懸命手を振る。
「じょ、冗談だよ。奢ってもらわなくても大丈夫だよ。私もバイトしてるし。あ、昨日お給料出たばかりだから、せっかくだしお腹空いたしお茶だけでなくて、何か美味しいものでも食べに行く?」
「え、いいの!? やったー! 持田さん、何か食べたいものある?」
「んー、そうだな……肉?」
「きゃ! 肉食系女子?」
「」
「うそうそ! ごめんってば! ちょ、そういう白い目で見ないでよ」
焦る加賀見くんがおかしくて、「冗談だよ」と笑い合いながらPCルームを出る。
「持田さんと焼肉行けるなんて今日はいい日だな〜」
「加賀見くん、大袈裟だよ」
(毎日楽しいことばかりじゃないけど、生きてて良かった)
そこには十年を失くした麻衣ではなく、新しい十年を築こうとしている麻衣の姿があった。
終
「麻衣! おめでとう! 今日はお祝いしなくちゃね!」
あれから、一年ちょっとで高認試験に受かることができて、お母さんとスマホに表示された合格の文字に大喜びした。
早希とはお母さんとの喧嘩のあとすぐに連絡を取って、今まで勝手に理不尽なことで怒っていたことを全部打ち明けた。そうしたら「まだ中身は十才だもんね。少しずつレベルアップすれば大丈夫」と許してくれた。
そして、高認試験のことも発表後に伝えると、自分のことのように喜んでくれて、とても嬉しかった。
ちなみに、早希も先日無事に司書の資格が取れて、臨時職員という感じだが司書として働き始めたそうだ。
あのときのいざこざというか、私が一方的にヤキモチを妬いて逆恨みしてしまったのに、早希の優しさのおかげで関係はある程度修復できたと思う。現在もそれなりに仲良くさせてもらっているが、今度は距離感を間違えないようにと自制するように心がけている。
また、お母さんはあれから、意中の人とは仲良くしているらしい。紹介してよ、と言ってはいるのにまだなんとなく踏ん切りはついていないらしく、先送りにされたままだ。
でも、教えてはくれないもののそれとなく雰囲気的にはいい関係が築けているようで、娘としては嬉しく思っている。
お父さんとは、頻繁ではないけれどちょこちょこと連絡を取るようにはなった。私が昏睡状態での離婚・再婚だったから、私からの心象が悪いだろうとあえて今まで自分から連絡は取らなかったそうだ。
正直、その言い訳ズルくないかとまだちょっとお父さんとは打ち解け切れていない。でも、以前に比べたら誕生日や入学式のときなど、行事があるときは連絡を取り合えるようになっていて、ぎこちないながらも言葉を交わせている。
そして現在の私はといえば、今は現役の大学生である。
高卒認定試験に受かったあと、高卒での就活を最初は考えていたものの、お母さんから「十年分の青春を取り戻してきなさい」とのことで、大学に進学することにした。
お金のことは正直心配だったけど、「そのためにお母さんはあくせく働いてきたのだから、任せなさい!」と胸を張って言われてしまって、そこはお母さんに甘えることにした。実際、私が勉強している間に忙しくなったのは、そういうことを考えての行動だったらしい。
(本当に、お母さんには頭が上がらないな)
そして高卒認定試験合格後からさらに一年受験勉強をし、見事に国立の大学に合格することができた。
そのときはお母さんだけじゃなくて、お父さんや早希にもお祝いしてもらった。
大学に入ってからは、自分が学びたいことを学べるということがとても楽しかった。私はやはり物語が好きなので文学部の言語科を専攻していたのだが、ゼミの教授から「とにかく一度書いてみたら?」と言われて拙いながらも物語を書いてみることにした。
タイトルは「タイムリープ10years」
主人公は何の変哲もない女の子。
彼女は「早く大きくなりたい」と願ったことで、十年後にタイムリープするという話だ。
「持田さんのその話、面白いよね」
PCルームで黙々と執筆作業をしていると、急に声をかけられてドキッとする。顔を上げると同じゼミの加賀見くんがいた。
加賀見くんは同じ三年生だけど、現役で入学しているから、私よりは年下だ。見た目はチャラくて軟派そうな男の子なのに、実は両親を亡くして奨学金でこの大学に通っている。いわゆる苦学生である。
「急に話かけないでよ。びっくりするじゃん」
「ごめんごめん。驚かすつもりなかったんだけどさ。思いのほか集中してたんだねー」
「私、何かに没頭すると時間忘れるタイプだから」
「なるほどね。確かによく時間ギリギリまで教室いたり、閉館時間まで図書室いたりするよね」
まさかそんな詳しく知られているなんて思わなくて、なんとなく羞恥心を感じる。
というか、そもそも加賀見くんは他の人に比べてすごく距離が近い。私の境遇にも偏見も持たずに「そういう人生もあるよねー」って言って、どんどん距離を縮めてくるのに私はどうしたらいいのかよくわかっていなかった。
「てか、もうすぐPCルーム閉じるってよ」
「え、そうなの?」
「そうそう、ほらポータルで通知来てたよ。校内清掃入るから今日は早めにPCルームを閉めるって」
「全然知らなかった」
「ダメだねー。ちゃんと確認せねばならんよ!」
聞き覚えのある声真似に、思わず吹き出して笑ってしまう。
「はは、それ松村教授の真似?」
「似てる? てか、せっかくだし持田さん一緒帰ろうよ。確か、方向一緒だったよね。あとよかったら、ついでにお茶でもどう?」
「えー、急にどうしたの?」
「持田さんとお近づきになりたくてさ」
「何それー」
冗談なのか本気なのか、私にはまだ判断つくほどの場数は踏んでいない。でも、みんなそれぞれ生い立ちや性格、感情等々人によって違ってそれぞれ表と裏があることはちょっとずつ理解しているつもりだ。
私はPCの電源を落とすと、USBを片付けて席を立つ。
「じゃあ、今日は加賀見くんの奢りね」
「え、マジで一緒に帰ってくれるの? もちろん、オレが誘ったんだし奢る奢る!」
冗談で言ったつもりなのにまさか乗り気になるとは思わず、私は加賀見くんに何て図々しい女だと思われないかと焦って、一生懸命手を振る。
「じょ、冗談だよ。奢ってもらわなくても大丈夫だよ。私もバイトしてるし。あ、昨日お給料出たばかりだから、せっかくだしお腹空いたしお茶だけでなくて、何か美味しいものでも食べに行く?」
「え、いいの!? やったー! 持田さん、何か食べたいものある?」
「んー、そうだな……肉?」
「きゃ! 肉食系女子?」
「」
「うそうそ! ごめんってば! ちょ、そういう白い目で見ないでよ」
焦る加賀見くんがおかしくて、「冗談だよ」と笑い合いながらPCルームを出る。
「持田さんと焼肉行けるなんて今日はいい日だな〜」
「加賀見くん、大袈裟だよ」
(毎日楽しいことばかりじゃないけど、生きてて良かった)
そこには十年を失くした麻衣ではなく、新しい十年を築こうとしている麻衣の姿があった。
終



