タイムリープ10years

 あれから、お母さんとちゃんと話をした。

 勉強のこと、将来のこと、早希のこと、どれもこれも全部不安でどうしようもないこと。

 お母さんはちゃんとずっと、私の話を遮ることなく、根気強く最後まで聞いてくれた。たどたどしくて、自分でも何を言ってるかわからないときもあったのに、それでも全部お母さんは聞いてくれた。

 ただ私が感じたこと思ったことを話すだけだったのに、ちょっとだけ自分の中にある黒くて淀んだ何かが減って、重く沈んでいたはずの心が軽くなったような気がした。

 そして、言いたいことを全部言い終えると、「話してくれてありがとう」とお母さんは私のことを包み込むようにギュッと抱きしめてくれた。お母さんの温かい体温に、また涙が溢れてくる。

(もっと早く、ちゃんと話せば良かった)

 それから、お母さんも色々話してくれた。

 私のこと、私が入院中のこと、仕事のこと、実は気になる人がいること。

 お母さんも私と一緒で、今まで言いたいことがあってもいつもなかなか言えていなかったらしい。もっと親らしく色々と言わなきゃいけないと思っていたそうだけど、事故のこともあって余計なことを言って私を混乱させたくなかった。下手に何か言って反抗されたらどうしようかと思って上手く言えなかったとも言われた。

 確かに、今まで私はいつも言いたいことがあっても顔色を窺って飲み込むことがよくあった。無意識に、忙しいお母さんの手を煩わしてはいけないという気持ちがあった。
 だからずっと我慢して我慢して我慢して。
 つらかったこと、傷ついたこと、苦しかったことがあっても自分でどうにかしようと溜め込んでしまっていた。
 それが今回爆発してしまったのだけど、それについてお母さんからは「お互いによくなかったね」と言われた。

 確かに、お互いが変に気を遣いすぎていた気がする。
 ただ相手に伝えるだけでよかったはずなのに、無駄に難しく考えて、それでお互いにストレスを溜めて余計に拗らせてしまっていた。
 だから、今回の件を反省して、これからはなるべく言いたいことは言い合おうということになった。

 また、お母さんは仕事は楽しいけど、私のこともあってこのままセーブし続けるか、それともフルタイムで働こうか悩んでいたらしい。

 お金のこともよくわかっていなかったけど、お父さんから貰える養育費と事故の慰謝料、そして保険料を使ったとしてもほとんど治療費や入院費でなくなってしまって生活は厳しいのだというのを初めて知った。

 それなら私は進学しないで働くとも言ったけど、お母さんからは高認試験をとにかく受かること。まずはそこからだと言われた。

「どうして?」
「お給料が全然違うの。早く働き始めても、中卒と高卒じゃ生涯賃金が全然違うし、待遇も違う。だから、とにかく高認試験には受かって、できれば資格も取ったほうがいいわ」
「だったら、最初からそう言ってくれればいいのに」
「私も頭の中がこんがらがってたの。見た目は二十歳だけど、中身は十才のままでしょう? どこまで理解できるかの判断ができなかったから……ごめんなさい」

 言われて、確かにその通りだと気づく。
 自分でさえ戸惑っている状況なのだから、お母さんも戸惑うのも無理はないと今なら思えた。

 お母さんだって人間なのだし完璧なわけではない。
 そんな当たり前なこと今気づくなんて私がどれほどお母さんに甘えていたのか気づかされた。

「だけど、今度からは色々きちんと話すわね」
「うん。私ももっとちゃんと話すし、家のこともする。もっと自分で色々できるように頑張る」
「ありがとう、麻衣」

 お母さんからありがとうと言われてはにかむ。
 そして、私も十才のままの子供みたいに甘えているだけではいけないと、反省した。

「ところで、気になっている人って誰?」
「はは、そこはスルーしてくれてもいいのに。目敏いわね、麻衣は」

 そう言いつつも、笑いながら仕事先の人でお母さんよりも二つ上で、奥さんとは既に離婚して独身という男性だと教えてくれる。

「ねぇ、写真ないの?」
「本当もう、やけに食いつくわね」

 恋バナは昔から好きだ。例え、それがお母さんだとしても色々話を聞きたかった。

「ほら、この人」
「うーん、イケメン? ってより犬みたいな感じ?」
「どういう意味よ、それ」
「なんていうか、元気そうな人」
「確かに……元気ではあると思うけど」

 ちなみに、私のお気に入りの大きいぬいぐるみはその人が取ってくれたらしい。

「えー!じゃあ今度お礼するから連れてきてよー!」
「やだよー。恥ずかしい……!」
「えー、いいじゃーん」

 お母さんとこんな話ができるだなんて今まで知らなかった。
 お互いに隠さずに何でも話せるようになって、なんとなくお母さんとの心の距離が近くなった気がする。今までお互いよそよそしかったのが嘘のように会話が弾んだ。

「あっちがオーケーしたらね」
「うん。楽しみにしてる」

 それから、何でも手伝うようになった。いつも勉強優先だって言われてたけど、料理を覚えたいと言ったらお母さんは喜んでくれた。

 時々、お母さんが「私を心配して無理しなくていいのよ。そんなにいきなり頑張らなくてもいいんだから」と私のことを甘やかそうとするけど、それは私自身で「私がやりたいんだからいいの」と突っぱねるようにした。

 そういうのを繰り返しているうちに、お母さんもだんだんと積極的に私にお願いごとをするようになった。そんな変化が誇らしくて、成長したなって自分でも実感できて嬉しくなる。

 何気ないただの日常が、少しずつだけど、嫌なことだけじゃなくて楽しいことや嬉しいこともあることに気づく。

(あぁ、あのとき死ななくて良かった)