半分のピアニスト

私の右手は、あの日死んだ。
かつて鍵盤の上を自在に駆け巡り、幾千の音を紡ぎ出したその指先は、今や冷たく黙り込んだ肉の塊にすぎない。
それなのに。
壁一枚隔てた隣の音楽室から聞こえてくる奏のピアノは、残酷なほど生き生きと跳ねている。
ミスタッチだらけ。リズムも独りよがり。
私がかつて「ゴミのようだ」と切り捨てたはずのその音が、今の私には、世界で一番眩しい光に見えて、……たまらなく、反吐が出る。

ふいに音が止まった。
乱暴な足音が廊下を走り抜け、私がいる旧校舎の隅にあるこの教室の扉が、壊れそうな勢いで開け放たれる。

「――見つけた!零、またこんなところで逃げてたでしょ!」

夕日に照らされた逆光の中、肩で息をしながら立っているのは、奏だ。
彼女は汗をぬぐいもしないで、椅子に座り込んでいた私に、真っ直ぐな指先を突き付けた。

「さあ、立って。二人で弾かなきゃ完成しない曲が、私たちを呼んでるんだから!」