女たらしは、天然男子にくびったけ


 入江にハグをしてから2週間。中間テスト最終日の今日まで、入江と絡む機会は無かった。
 「あぁー、やっとテストからの解放だぁー!」
ホームルーム終わり、ガッキーの喜びの叫びとともに3人で廊下に出た。
 「腹減ったー。何食う!?」
「ファミレス行きたーい」
「賛成」

 靴箱に着くと、入江がクラスメイト数人といた。
ーなんだかんだで、いつも人に囲まれてるよねぇ。
「あ!桐谷、お疲れ様!」
俺に気付いた入江が笑顔で近づいてくる。
「お疲れー」
「ガッキーも久しぶり!」
「久しぶりっ。あれ、半ちゃんがいない」
「半ちゃんは今日もいるよ!生きてる!」
「あはっ、入江相変わらずー。半ちゃんは今どこにいるのって意味」
「そっちか。今、お手洗い行ってる。…あ、ちょうど帰ってきた」
 黒髪に眼鏡姿の男子が現れた。
「半ちゃん、おつー!」
「ガッキー、お疲れ。…何この状況。もしかして圭一郎がなんか迷惑かけた!?」
俺たち3人と入江がいるのを見て、心配そうな顔をした。
ー…入江の下の名前、圭一郎なんだ。ちょっと意外。
「あはは、半ちゃんの母ちゃんモード発動だ!大丈夫大丈夫、普通に喋ってただけだから」
「そうか、ならよかった」
「半ちゃんは僕を何だと思ってるのっ!喧嘩売るような男じゃないもん!」
「ばぁか。そういう心配じゃないから。その天然に周りを巻き込んでないかの心配。ていうか、圭一郎は喧嘩とか出来ないじゃん」
「僕、絶対天然じゃないし。喧嘩は出来ないけど…」
「ガッキー、引き止めてたみたいで悪かった」
「ぜーんぜん」


 入江たちと別れた俺たちは、ファミレスに着き、QRオーダーを済ませた。
「さっきの半ちゃんって誰?」
「半田だよ、図書委員の」
「図書室に授業以外で行かないから知らなーい」
「入江と1番仲良くて、入江のお世話係って感じ。天然で危なっかしいとこをフォローしてるな、いつも」
…危なっかしい…なんか納得。
「中身知らねーけど、ギャル以外にはモテそうだったな」
シゲの発言にガッキーは激しく頷いた。
「そうなんだよ!半ちゃんは、地味な眼鏡男子じゃなくて、イケメン眼鏡だから実はモテてます!ただし!本人が入江の世話に集中し過ぎて、周りの女子からのラブい視線に気付いてない」
「単に本人が恋愛に興味ねーのかもよ?」
「そんな10代いる!?恋愛しなくても、桐たんみたいに女子抱くことには興味あるだろ!」
「ちょっとガッキー。俺を身体目当ての人間みたいに言わないでよー。俺はね、女子たちの希望や要望を真摯に受け止めて、叶えてあげてるだけで、自らアクションを起こしたことはないから!」
「ドヤることじゃねーから。悠はさっさと一途になれよ」
「はいはい、分かってまーす」



 数日後の昼休み、ガッキーが聞いてくる。
「2人とも今日放課後ヒマ?」
「彼女とデート」
「俺も4組の瑠奈っぺとデート」
「瑠奈っぺと!?俺も混ぜてよ!3人で遊ぼうぜ!」
「3人でもいいかは、瑠奈っぺに聞いてみないと分かんない。ちょっと連絡してみるー」
「瑠奈っぺならオッケーするはず」
「あ、もうレス来た。…おやおや、俺と2人がいいってさぁ。ガッキー、どんまい」
「えぇー」


 瑠奈っぺとの待ち合わせが図書室になり、初めて放課後の図書室へ入った。
…あ。
カウンターには、女子生徒1人と半ちゃんこと半田が座っていた。
ーそうだった、半ちゃん図書委員だったね。
 本を選ばず、カウンター近くの席に座った俺はスマホをいじる。
「あ、入江君借りた本忘れてる」
図書委員の女子の声が耳に入った。
「またか。俺が持って帰って、明日渡しておく」
「ふふ、ありがとう。入江君は半田のおかげで危機回避出来てるね」
「忘れてる時点で回避出来てないけど」
「入江君って、レジでお釣りだけもらって、商品受け取らず帰るタイプ?」
「うん、まさにそういう典型的な天然」
「だからほっとけないんだね」
「まぁ…」
「…。」
…ただのお世話係じゃない感じっすかねぇ。
「桐谷っち、お待たせ!」
メイクばっちりの瑠奈っぺがやってきた。
「ぜーんぜん待ってないよーん。じゃ、行こっか」


 「さっきカウンターに居た半田君って、かっこいいよねぇ!」
「瑠奈っぺ、ああいう見た目がタイプだっけ?」
「タイプってゆーか、自分がイケメンなことに気付いてない感じが逆に良い」
「あー、逆にね?メガネの奥に隠れるイケメンに唆られちゃったりね」
「そーそー!絶対誠実で、彼女一筋だよ、あの顔は!」
「あはっ。付き合ってないのに、手繋いでる俺らとは正反対じゃーん」
「やば、ウケるー!でも大丈夫!桐谷っちは、このノリの良さが魅力だからー」
「ありがとーん」



 翌週の朝のホームルーム。担任の女教師が連絡事項を伝える。
「今日は放課後に委員会があるから、各委員は忘れずに参加してちょうだいね。集合場所は後ろの黒板に貼っておくので、また確認しておくように」
 え、委員会って毎月あるの?わー、だるー。


 今日の緑化委員の集合場所は、校舎の南側だった。
「本日の活動は、夏に向けて緑のカーテンを準備します。校舎南側2階までと渡り廊下1階部分にネットを付けて、そこにゴーヤとアサガオのプランターを設置する作業です。プランターへの苗植えとネット付けに分かれて進めていきたいと思うので、ひとまず先月のペアになってください」
 委員長の指示がある前から、入江は俺の横に立っていた。
「よろしくね!」
「こちらこそー」

 俺と入江は、アサガオの苗植え担当になった。日陰になっている場所で、指示された数の苗をプランターに植えていく。
 「何色が咲くかなぁ」
入江は植えながら楽しそうな表情を浮かべた。その姿をぼんやり見る俺は、何を考えてんだろう。
「桐谷?体調悪い?」
「えっ、ううん。ちょー元気」
「さすが!」
…さすが?
「…このアサガオたち、ここからネットにうまく絡みついていくの凄いよね!なんか生きてるって感じだよね」
「そだねー」
「あ、そうだ。桐谷に聞きたいことあって」
「なに?」
「手繋ぐタイミングって…いつ?」
「え、タイミング?」
「やっぱデートしなきゃ繋げない?」
「別にそんなこともないんじゃない?…てゆうか、まだドキドキのお試し継続中なの?」
「うん。キスとハグじゃまだ分かんないから続けたいと思ってる。…迷惑かな?」
 キスとハグでドキドキしなかったら、他のことしてもならなくない?
 なんて思いながら違う返事をする。
「迷惑じゃないよーん。たださ、聞くだけなら俺じゃなくて、他の男子でもいいんじゃない?前に言ってたはったんや、仲良しの半ちゃんとかさ」
「うーん、なんか、仲の良い友達にこういう相談するの恥ずかしくて。それに半ちゃんは、俺が恋愛に興味持ち始めたの知ったら、すごく心配すると思うんだよね」
「何で?健全な男子なら恋愛ぐらいするでしょ」
「僕に汚れてほしくないのかも」
ー別に恋愛は汚れないけど。
「まぁ、いいや。委員会終わったら、手繋ごっか」
「え、いいの!?ありがとう!」
 まるで好きな人と約束したみたいに喜ぶ入江を見たら、自分らしくない言葉が浮かんだ。
 そんなに嬉しそうなのは、新しいドキドキを試せるから?それとも、相手が俺だから?

 「みんなのスムーズかつ丁寧な作業のおかげで、無事に時間内に終わりました!ありがとう!今月は2年生が水やり担当なので、立派な緑のカーテンが完成するために、しっかりよろしくお願いします。では、飲み物もらった人から解散してください」
…ん?水やり?

 「ねぇ、入江。水やりの話なんかあったっけ?」
「前の委員会の時に先生が言ってたよ?4月と7月は3年生、5月は1年生、6月は2年生が交代で毎朝水やりするって」
「初耳ー」
「1組からだから、明日は僕、明後日は桐谷だよ」
「え、1人ずつなの?ペアじゃなくて?」
「うん。校務員さんも手伝ってくれるから」
「ふーん」

 人のいない校舎横の外階段に入江と並んで座った。
「手繋ぐタイミングって、こうやって隣に座ってる時か、並んで立ったり歩いたりしてる時、あとはヤッてる時があるわけですよ」
「やってる…時…とは」
「男女の営み。今の入江には関係ないから、一旦スルーして」
「う、うん」
「先に言っとくけど、男と女の手は全然違うからね?肌感や柔らかさ、指の細さとか別物だから」
「うん、わかった」
「じゃ、早速繋ぎますか。…手出してー」
 差し出された手を軽く握った。
「まずは親子繋ぎ。普通に繋ぐ定番の形かな。で…これが全部の指を絡める恋人繋ぎ」
「わぁ、なんか密着してる」
「…密着度は減るけど、小指同士だけ絡ませる約束繋ぎ。あとは…こうやって指数本を緩く握ったり、軽く包み込んだり…。手首持つ人もいるし、こんな風にもっと複雑に指をロックさせる人もいるかな」
 説明しながら繋ぐなんて、授業みたいでドキドキの欠片もないな。
「へぇ、いっぱいあるんだね!」
「人それぞれ好みがあるし、相手との関係性や手の相性もあるから、オススメとかはないけど…どれがドキドキしそう?」
 入江は軽く繋いだままの手を見ながら少し考え、口を開いた。
「ドキドキ…というか、1番しっくりフィットしたなって感じたのは、最後のロックするやつ。…もう一回してもらっていい?」
「いいよぉー」
 さっきと違い、何も言わずに無言で指を数本絡め、曲げて固定した。
…ぎゅ…
 「…。」
今さらだけど、入江の指って男にしては細い。だからかな?若干汗ばんでても気になんない。俺も入江とならこの繋ぎ方が良いかも。

 視線を手から入江の顔に移すと目が合い、照れくさそうな表情をしながら伝えてくる。
「…うん、やっぱりこれが1番桐谷と繋がってるなって思う」

…ドクンッ…

 俺は、自らアクションを起こさない。だって、来るもの拒まず去るもの追わずで、相手に興味ないし。…なのに何でかな。入江の言葉に俺の奥底にあるスイッチが入った。

 「ねぇ……本気でドキドキさせていい?」
「…えっ」
片手の指をロックしたまま、繋いでいない方の手で入江の腰あたりをぐっと引き寄せた。
「…“モテる女たらし”なんてレッテル貼られてる奴にお願いしてきたのは、そっちだから…」

…ちゅっ……くちゅ…

 驚きで少し開いた入江の口の中へ舌を入れ、アサガオのつるみたいにゆっくり絡ませていく。
ーベロちっちゃ…。
 てゆうか、突き離さず受け入れちゃってんの何。

 「…ふはっ…はぁ…はぁ…」
…息してなかったんだ。
 キスの終わった入江は頬を赤らめ、今まで見せたことのない表情をする。
 「…そんな顔しておいて、ドキドキしてないとか言わないよね…?」