好きの、その先へ


 彼は少し視線を落としてから、ゆっくりと顔を上げた。

「……友だちみたいに、これまで通り話してくれる?」

 その言い方が、どこか恐る恐るで。
 拒まれるかもしれないと、ほんの少し身構えているように見えた。

 わたしはすぐに頷く。

「もちろん」

 その瞬間、彼の肩の力がわずかに抜けたのがわかった。

「正直さ」

 彼は頼んだコーヒーカップの縁を指でなぞりながら続ける。

「遠距離で、月一しか会ってないし、電話もしてないし。
 気持ちが薄れてた部分も、あったんよな。
 このまま続けても、どっちかが無理して壊れる気がしたんよ」

 責めるでもなく、言い訳でもなく。
 ただ、事実を静かに置くような言い方だった。

「遠距離向いてないって、言ってたもんね」

「そうなんよな」

 短く笑うけど、その目はどこか寂しそうだった。


 しばらく沈黙が流れてから、彼がふとこちらを見る。

「……なんで俺のこと、そんな好きでいてくれんの?」

 予想してなかった質問に、思わず声が裏返る。

「え?」

「かわいいし、頭もいいじゃん。
 俺なんかよりずっとしっかりしてるし」

 自信のないわけじゃないはずの彼が、こんなことを言うなんて思ってなかった。

 わたしは少しだけ考えてから、正直な言葉を探す。

「一緒にいると落ち着くの。
 たくさんの愛情と肯定をくれたから。
 それをくれたのは、あなただったよ」

 いままで充分すぎるほどたくさんもらったから。

 「……これじゃ、だめ?」

 彼は困ったように眉を寄せる。

「いや……だめではないけど」

 どうやら、まだ納得はしていないらしい。

 わたしはふっと笑って、少しだけ冗談めかして言う。

「わたし、一途でいい女だよ?
 ずっと好きでいるよ? そういうの、簡単にできる人ばっかじゃないよ?
 絶対弁護士になるよ? 将来安泰だよ?
 いいの? 他の男が放っておかないよ?」

 半分本気で、半分照れ隠しのプレゼンみたいな言葉。

 彼は思わず吹き出した。

「それはそう。俺でも思うよ」

 そう言って、自然な仕草でわたしの頭をぽん、と撫でた。

 その手のひらの温度に、胸の奥がじんわりとあたたかくなる。

 あぁ、やっぱり。
 わたしはこの人のこういうところが、たまらなく好きなんだと思った。
 もうどうしようもないくらいに。