「結蘭、顔、やばいよ。大丈夫?」
あのカラオケ以来また会ってくれた萌奈は、開口一番そう言った。
「ぜぇんぜん、だいじょーぶじゃないよぉ」
ふざけるように言いながら、萌奈に抱きついた。
人の体温が、こんなにも安心するだなんて。
「ご飯、食べてる?」
「……食べてない」
「寝てる?」
「……寝てない」
「もうそれはダメだよ。ちゃんとしなさい」
彼女は、容赦がない。
「はい、とりあえずなんか食べなって」
メニューを渡される。
けれど、文字を見ているだけで気持ち悪い。
「……いらない」
「え?」
「食べたくない」
「そういう問題じゃないでしょ」
萌奈はメニューを取り上げて、勝手に注文を始めた。
店員さんが去っていくのを見送りながら、彼女はようやくわたしに視線を戻す。
「で、どうするの?」
水を一口飲みながら、何気ない顔で言う。
「……なにが?」
「このまま終わるの?」
言葉に詰まる。
「終わったじゃん、もう」
「ほんとに?」
視線がまっすぐ突き刺さる。
「結蘭、全然終わってない顔してるけど」
「……」
なにも言えない。
「最後にちゃんと話はした?」
「……LINEで」
「え、それで終わり?」
小さく頷く。
「それ、終わってないよ。会って話しなよ」
「いや、無理だよ」
反射的に返す。
「なんで?」
「え、なんでって……。ニ回も別れてるんだよ。もう無理だよ。
なに言ってもつなぎ止められない。
価値観の相違言われたら、もうなにも言えない」
「それ、全部向こうの意見じゃん」
言葉が詰まる。
「結蘭は?」
「……」
「結蘭はどうしたいの」
わからないって言いそうになって、飲み込む。
「……まだ、好き」
やっと出た言葉は、それだけだった。
萌奈は小さく息を吐く。
「結蘭がめちゃくちゃ一途で、彼のためにどれだけ努力してきたかわたしはだれよりも近くで見てきたよ!
あんなに好きだって言ってたじゃない。
なのに、このまま会えずに終わっていいの?」
「……萌奈」
「最後にせめて、顔を見てちゃんと話すべきじゃないの?
もう二度と会えないかもだよ? 手放していいの?」
「だって!」
思わず大きな声が出る。
「好きだけじゃ続かないんだよ!」
店の中の視線が、一瞬だけこちらに集まる。
それでも止まれなかった。
「相性とか、価値観とか、そういうの全部含めて無理って言われたら、もうなにも言えないじゃん!」
「言えるでしょ」
被せるようにズバッと返される。
一瞬、言葉を失う。
「自分の考えたこと言ったの?」
「……言ってない」
「でしょ。結蘭は察してほしいタイプすぎる」
静かに刺される。
「言わなきゃ、ないのと一緒だよ」
その言葉が、やけに重かった。
彼女は、ほんの少しだけ視線を落とした。
「わたしね、いまだに後悔してるよ」
「え?」
「元カレ」
視線はテーブルの木目のほうに落ちたまま。
「もっと引き止めて、ちゃんと好きって言えばよかったなって」
「……」
「もうブロックされてるし、どうしようもないけど」
小さく笑う。
でも、その笑いは少し歪んでいた。
「結蘭はまだ間に合うでしょ」
彼女は、顔を上げてわたしの双眸をしっかり見る。
「後悔するかどうかは、あとでしかわからないよ」
「……うん」
「でも、なにもしなかった後悔は、ずっと残る」
胸が、じわっと熱くなる。
「まわりは忘れろって言うよ。
正しいし、たぶんそのほうが楽だと思う」
「……うん」
「でも、それを選ぶのは結蘭だから」
萌奈はふっと力の抜けた笑みでわたしの手を優しく握る。
「どっちを選んでも、わたしは文句言わないよ」
その言葉で、張り詰めていた糸が解ける。
「……ずるい」
「なにが?」
「どっちでもいいって言うの」
「だってほんとにどっちでもいいもん」
あっさり言う。
「結蘭が後悔しないなら」
その瞬間、迷いが消えた。
「わたし、ちゃんと考えて、自分の想い、伝えてくる」
「うん」
萌奈が、軽く頷く。
それだけでよかった。



