国王夫妻を見上げる位置まで歩みを進めると、シグルドは立位での深いお辞儀を、アンネリーゼはドレスの裾を持ちカーテシーで最敬礼をする。侯爵家で淑女教育を受けていてよかったと、この時ばかりは実家に感謝した。
正面の玉座に座る国王夫妻は、以前にシグルドから聞いていたような〝厳しい表情〟とは異なり、そのまなざしには温かさが混じっている。歓迎されていないわけではないことが伝わって、アンネリーゼは内心ホッと胸をなでおろした。
国王が、低く響く声で場内の空気を震わせる。
「よくぞ参った、アンネリーゼ嬢。シグルドから君の活躍は聞いている。我が国の窮状を救うべく、見事な知恵を貸してくれたそうだな」
国王の声音は穏やかだったけれども、その言葉の裏には、値踏みするような鋭い響きが潜んでいた。
「感謝はしている。シグルドがそなたを婚約者として迎えたいと切望していることも、そなたが祖国グランディールを追放された身であることも、すべて承知の上だ。我が息子に、将来を誓えるご令嬢が現れたこと自体は、親として、また王として歓迎しよう」
そこで国王は言葉を切り、憂いの表情を浮かべる。
「だが、シグルドを支え、この国を共に背負うという重責を、果たして君のようなたおやかな娘が担い切れるものだろうか」
歓迎の言葉に続いて投げかけられた、その覚悟を問う厳しい一言。隣に座る王妃もまた、優雅に扇を動かしながら、どこか不安げにアンネリーゼを見つめた。
「アンネリーゼ、わたくしもあなたがシグルドの前に現れてくださったことをとてもうれしく思っております。けれども、息子は王太子として、常に険しい道を歩まねばなりません。特に、国が不安定である今ならなおさら……。息子の隣に立ち続けるには、類まれなる覚悟が必要なのです。今のあなたに、それを支えるだけの力が本当にあるのでしょうか?」
それは、アンネリーゼの覚悟を試す試練だった。かつての自分なら、この圧倒的な気圧に怯えていたかもしれない。けれど、今の自分には、隣で見守ってくれるシグルドがいる。そして、前世から積み上げてきた、仕事への誇りと情熱がある。
(シグルド様の隣に立てるのは、わたししかいないのだと――そう思っていただけるよう、自分にできることをやり切ってみせる!)
アンネリーゼは一歩前へ出ると、優雅に、けれど凛とした動作でドレスの裾を持って敬礼を捧げる。
「陛下、王妃様。温かなお言葉をいただき、心より光栄に存じます」
アンネリーゼの菫色の瞳に宿る決意が、国王夫妻をまっすぐに見つめる。
「シグルド殿下からお話があったかと存じますが、わたくしは、ブライダル事業を通じてこの国に多くの幸せをプロデュースしたいと考えております。それは単なる事業ではなく、シグルド様と共に歩み、この国の未来を支え抜くという、わたくしの生涯をかけた誓約でございます」
前世で培ったウェディングプランナーとしての矜持が、アンネリーゼの言葉に力を宿していた。
堂々と言い切ったアンネリーゼの姿を、シグルドが誇らしげに見守っている。そんなふたりの様子を前にして、国王夫妻は顔を見合わせて納得したふうにうなずきあっていた。
(やり遂げて見せるわ、シグルド殿下のためにも、この国のためにも、そして自分のためにも――)
アンネリーゼの新たな挑戦が始まる。
正面の玉座に座る国王夫妻は、以前にシグルドから聞いていたような〝厳しい表情〟とは異なり、そのまなざしには温かさが混じっている。歓迎されていないわけではないことが伝わって、アンネリーゼは内心ホッと胸をなでおろした。
国王が、低く響く声で場内の空気を震わせる。
「よくぞ参った、アンネリーゼ嬢。シグルドから君の活躍は聞いている。我が国の窮状を救うべく、見事な知恵を貸してくれたそうだな」
国王の声音は穏やかだったけれども、その言葉の裏には、値踏みするような鋭い響きが潜んでいた。
「感謝はしている。シグルドがそなたを婚約者として迎えたいと切望していることも、そなたが祖国グランディールを追放された身であることも、すべて承知の上だ。我が息子に、将来を誓えるご令嬢が現れたこと自体は、親として、また王として歓迎しよう」
そこで国王は言葉を切り、憂いの表情を浮かべる。
「だが、シグルドを支え、この国を共に背負うという重責を、果たして君のようなたおやかな娘が担い切れるものだろうか」
歓迎の言葉に続いて投げかけられた、その覚悟を問う厳しい一言。隣に座る王妃もまた、優雅に扇を動かしながら、どこか不安げにアンネリーゼを見つめた。
「アンネリーゼ、わたくしもあなたがシグルドの前に現れてくださったことをとてもうれしく思っております。けれども、息子は王太子として、常に険しい道を歩まねばなりません。特に、国が不安定である今ならなおさら……。息子の隣に立ち続けるには、類まれなる覚悟が必要なのです。今のあなたに、それを支えるだけの力が本当にあるのでしょうか?」
それは、アンネリーゼの覚悟を試す試練だった。かつての自分なら、この圧倒的な気圧に怯えていたかもしれない。けれど、今の自分には、隣で見守ってくれるシグルドがいる。そして、前世から積み上げてきた、仕事への誇りと情熱がある。
(シグルド様の隣に立てるのは、わたししかいないのだと――そう思っていただけるよう、自分にできることをやり切ってみせる!)
アンネリーゼは一歩前へ出ると、優雅に、けれど凛とした動作でドレスの裾を持って敬礼を捧げる。
「陛下、王妃様。温かなお言葉をいただき、心より光栄に存じます」
アンネリーゼの菫色の瞳に宿る決意が、国王夫妻をまっすぐに見つめる。
「シグルド殿下からお話があったかと存じますが、わたくしは、ブライダル事業を通じてこの国に多くの幸せをプロデュースしたいと考えております。それは単なる事業ではなく、シグルド様と共に歩み、この国の未来を支え抜くという、わたくしの生涯をかけた誓約でございます」
前世で培ったウェディングプランナーとしての矜持が、アンネリーゼの言葉に力を宿していた。
堂々と言い切ったアンネリーゼの姿を、シグルドが誇らしげに見守っている。そんなふたりの様子を前にして、国王夫妻は顔を見合わせて納得したふうにうなずきあっていた。
(やり遂げて見せるわ、シグルド殿下のためにも、この国のためにも、そして自分のためにも――)
アンネリーゼの新たな挑戦が始まる。


