【あとがきページを追加しました!】夏を迷えど、遥けし恋はますばかり

【ご挨拶】
初めまして、五慈あおいと申します。この度は、拙作『夏を迷えど、遥けし恋はますばかり』をお読みくださり、本当にありがとうございます。 初めてのジャンル(ホラーBL)への挑戦ということで、読者の皆様がこの物語をどう受け止めてくださったのか、ドキドキしながらこのあとがきを書いております。今回は設定についてたっぷりと語っておりますが、気になる・読みたい部分だけでも楽しんでいただけていれば幸いです。

【執筆の経緯】
本作は「青春ホラーBL」の公募に向けて執筆した作品です。正直なところ、募集要項で「ホラー」の文字を見た瞬間は「私には書けない……」と尻込みしてしまいました。ですが、「挑戦せずに終わるのではなく、書いてみることで経験を重ね、見えてくるものがあるはずだ」と自らを奮い立たせ、筆を執ることに決めました。 結果として、ノベマ!さんの週間ランキングで部門6位、7月付けの「青春ホラーBLコンテスト」では読者人気順で1位を頂くことができ、この公募に参加しなければ得られなかったであろう描写を学び、実践するよい機会となりました。また、ラブとホラーの塩梅がとても難しかったのですが、結果として「胸きゅん」と「怖い」の感想が半分ずつ拮抗する形となり、読者の皆様の反応によって作品への意味づけをしていただいたように感じております。

【ストーリーについて】
当初は、太輔の家でホラー映画を鑑賞中に画面から手が出てきて、ふたりが映画の世界へ引きずり込まれる……という、コメディポップな要素の強い物語を考えていました。太輔だけが映画の内容を覚えていて、ジャパニーズホラー系の廃墟を無限ループしながら幽霊と「だるまさんが転んだ」状態になり、最後は光希だけを助けようとする、という今とは全く違うプロットでした。
ですが、執筆の途中で「もっとじめじめしたものを書きたい」「読んでいて映像が浮かぶような、息苦しい夏の雰囲気を強くしたい」と感じ、大きく方向転換することにいたしました。結果、当初のものに比べるとよいものが書けたのではないかな、と思っております。

《一番最初に書いたアイディアノート》


方向転換をするにあたって、まず最初に思いついたのが「花火」のシーンでした。物語の冒頭、光希が太輔に別れを告げるシーンです。アイディアノートには「次の季節が来ても 何年後でも ここで花火みる」と書いてあるのですが、およそ4か月前の走り書きなので若干忘れている部分もあり……おそらく、光希と太輔、双方の心の根っこにある思いだったのかなと思います。
夏祭りで友人として別れを告げられた太輔は、「生活の一部が欠けるような寂しさ」を覚えます。 また、この事件を機に太輔が光希を守っていた結界が緩んだことで、蛇神を引き寄せる「隙」が生まれました。太輔の脇腹にある傷は、池に溺れた時に助けてついたものですが、光希のサンダルを池に投げ入れるよう犬をけしかけたのも、蛇神の仕業です。

ホラー要素として「これは入れたいな」とまず最初に思いついたのは、
・人の手を握ったような自転車ハンドルの感触
・ぬるい風
・風鈴の音
・黒い影
・涙を流す遺影
・水浸しになる校舎
・星空だと思ったら眼球だった
・太輔の事故現場にあるカーブミラー といったモチーフです。

また、「ホラーBL」らしい色っぽさとして、
・死ぬ前に鎖骨の間にキスマークをつける
・手首を赤い紐でくくる
・指からの出血を口で吸いとる
などを思いつきました。

《アイディアノートを元に書いたプロット》


【キャラクター設定について】

<キャラクター性>
「ヘタレワンコ×強気美人」という属性が最初に決まりました。当初はふたりとももう少し幼い喋り方をさせていましたが、恋愛要素を入れた時に色気がなくなるな……と中盤から気づき、書き直しております。

<ネーミング>
「藤原太輔」と「嶋田光希」。先に名前を決めてから苗字をつけたのですが、「受けに可愛い名前をつけたい」という私の癖が顔を出しそうになるのを必死に抑え、普通の男子高校生らしさを大切にしました。二文字だと一気に今どきの名前になってしまうので、平成初期くらいの文字感でつけております。

<外見>
太輔は「茶髪のワンコ攻め」と決めていました。一方で、光希はとにかく「美人」にこだわり、お洒落をせずとも地の美しさが際立つように、また浴衣姿が映えるようにと黒髪設定にしました。
作中では「綺麗」「美人」を強調しておりますが、個人的には女子からみれば光希も普通に「イケメン」の枠に入るくらい、身長もありますし肩幅もあるつもり……だったりします。

<モブについて>
「ボウズ・龍・トモ」もモブらしさを出すのに苦労しました。特にトモは当初「ハカセ」という名前でしたが、ヤンチャな龍とのバランスを考えて現在の名前に落ち着きました。ボウズが県内に一つしかない寺の息子、という設定で田舎の閉塞感を出しています。実はトモには「ふたりが想い合っていると気づきつつ見守っている」という裏設定があります。交際がスタートしても、トモはからかいもせず、光希には「良かったね」、太輔には「泣かせたら許さないからな」と言うでしょう。小さい頃はいじめられっ子だった彼が、このグループで一番男気が強いという設定です。
また筒井先輩は、この物語で一番か二番目に可哀想な役回りです。「筒井」は花火を打ち上げる「筒」から名付けました。閉鎖的な田舎町で光希への想いと向き合いながら、息苦しさを感じつつも我慢しきれずに告白をしています。自分は家業を継ぐため添い遂げる未来は描けないと知りながら、迷わず想いを伝える。光希とは対になる人物でもあります。歳を重ねても、光希を想いながら素敵な花火を打ち上げるのではないかな、と思います。

【舞台設定のこだわり】

<田舎町の情景>
どこか取り残されたような空気感の田舎町を目指しました。太輔の家の描写は、実際に祖母の家へ赴き、急な階段やタイル張りの浴室などを撮影して資料にしています。同世代の方に「おばあちゃん・おじいちゃんの家」を懐かしく思い出していただければ嬉しいです。

<視覚的なこだわり>
ラストシーンの「よぞら模様」の型板ガラスなど、映像的な怖さと美しさが印象に残るよう意識しました。

《実際の型板ガラス》


特にお気に入りは、光希と太輔が花火を見ている場面、筒井先輩の桃が潰れる場面、神社の帰りに光希が想いを堪える場面、夏祭り後に別れた太輔視点の描写、ラストの二の腕に頬を寄せる場面です。
もし「ここが良かった!」という光るものがあれば、ぜひコメントで教えてください。
実在のロケーションとして、田舎の生活習慣・風習は山形県庄内町、神社・松田商店・サニーモール、そして前世で光希と蛇神が心中をはかろうとする日本庭園は宮城県・秋保町の自然記念公園を参考にしております。

《実際に訪れた日本庭園》


【タイトルについて】
タイトルは核となる要素を並べ、悩んだ末に決まりました。 「夏祭りの間違い」「十年越しの腐れ縁・前世の繋がり」「恋愛ものとわかること」。光希の「思いがますばかりだ」という気持ちを軸に、「夏を迷えど/遥けし恋/ますばかり」としました。「遥けし」は古語から引用したもので、空間・時間・心理的な「遠く離れている」という意味が、この二人にぴったりだと思い採用しました。一見難しそうですが、私の中ではこれ以上のものを思いつかないタイトルになっています。いつも長いタイトルをつけるのですが、この作品だけは「自分の色」が出過ぎないように。結末が最後まで分からなくなるように、あえて抽象的なものにしています。

【ストーリーに込めた想い】
本作で中心に置いたのは「お互いへの執着と愛」です。恋愛色をただ地の文に塗りこむのではなく、十年来の運命的な幼馴染という「狂おしい日常的な依存」を描きました。 冒頭の「ねるねるねるぜ」のやり取りは、太輔からの最大の愛であり、光希の一番の甘えです。「仕方ないからやってあげる」は、裏を返せば「お前のことが大事で仕方がない」という言葉にならない想い。 サッポロラーメンは、お湯をかけて待つ間の時間と、ふたりの出生時刻の差をかけるために登場させています。ラストシーンの蛇神については、成仏したのか、何かを残しているのか……ぜひ読者の皆様の想像にお任せしたいと思います。



【制作の舞台裏】
本作は、他の3作品と同時進行・計4作品を掛け持ちするというハードな環境で執筆しました。「これ面白いのか病」と「怖くないのでは?」という不安のループに陥り、何度も現実逃避したくなる瞬間もありましたが、完成してみれば、半年間で一番苦労した分、愛着もひとしおです。(それでも、三か月が経った今こうして振り返ると、稚拙な文章だ~もっと努力せねば!と思っております)

誤字脱字がないよう音読を繰り返しましたが、もし見つけられたらそっと教えていただけたらと思います。 ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました。「ここはどういう意味?」「ここが好き!」など、感想をそのままコメントしていただけると、私自身の何よりの励みになります。これからも読みたいと思っていただけるような作品づくりを目指して、努力して参ります。


《イラスト:uichan先生》



五慈あおい