モテる後輩が今日も俺だけにケンカを売ってくる





「おせえよ、土坂、水馬〜」

机に広げられた少量のお菓子は、すでになくなりかけており机に座っていた上野がぴょんっと跳ねるようにおりて俺たちに駆け寄ってくる。

「何買ってきた?」

「ポテトチップスとか、チョコクッキーとか、あと上野が美味いって言ってたわさびチョコ」

「分かってんじゃんさすが俺のマブダチ土坂、水馬もありがとな」

「いえ」

水馬が持っていたお菓子が敷き詰められている袋が上野の手に渡り、早々に机の上に広げられ始める。
そんな様子をみていると隣から視線を感じて、顔を横に向けた。

「水馬も行けば?」

「先輩は?」

「俺もあとで食べるよ」

「先輩なんだから先どうぞ」

「気遣わなくていいよ、残り物の方が特別感あるだろ」

「…やっぱ変な人っすね土坂先輩って」

小さな声でそう言われ、「はあ?」と顔を歪めれば水馬はふっと笑いながら先に歩いていく。

面白いだの変な人だの、あまり褒められていないということは分かった。天気の話なんてするんじゃなかったなとそんなことを思いながら水馬の背中をみていれば、少し先でこちらを振り返ってきたその綺麗な顔。
そして、整った唇が小さく動く。

「またそのアホ面で空でも見上げてたらどうですか、その間にお菓子食い尽くしてますんで」

小さくもちゃんと聞こえた挑発ともとれるその言葉。
アホ面って聞こえたんだけど?なに、幻聴か?
脳内で水馬から吐き捨てられた言葉を処理するのに時間がかかっているうちに、水馬は上野たちの輪に入り込んでいた。
むっとしながら俺も後を追いかけるように輪の中に入り込む。
そして水馬の肩を掴んで、「おい」と。

「なんだよ今の、こっちは先輩なんだけど」

「気遣わなくていいよって言ったの先輩じゃないですか、それに帰宅部に上下関係とかあるんですね、知らなかったです」

そういうことじゃないんだよ、と水馬が手を伸ばしていたチョコを奪い取って自分の口の中に放り込む。

「先輩、それ」

「お前が俺のことを『先輩』って呼んでいる以上、俺は先輩なのっ、分かっ、何これ、辛っ!」

鼻がつんっと痛み、生理的に込み上げた涙が視界を覆う。そして、その様子をみていた上野の挑発するような声がそこに響いた。

「土坂が後輩に泣かされてる!」

「泣いてねえわ!」

この日からだ、水馬が俺にやたらとケンカを売ってくるようになったのは。