梨園の花嫁〜歌舞伎の御曹司は、芸妓の娘の義妹を手放せない〜

東城院の応接間は、妙に静かだった。
何度も入ったことのあるはずの部屋が、まるで違う空間に思えるほどに。

宗景は、嘉月が差し出した検査結果と根付を、長いこと黙って見ていた。
鴇子はその向かいで、顔色をなくしたまま座っている。
薫子だけが、張りつめた空気の中で落ち着きなく視線を揺らしていた。

私は千景の少し後ろに控え、畳の縁だけを見つめていた。
やがて宗景が、ゆっくりと検査結果の紙を置く。

「……そうか」

その一言だけだった。
怒りも、驚きも、大きくは見せない。
だが、声はひどく重かった。

「弥生は、東城院の子ではなかったということか」
「はい」

嘉月ははっきりと答えた。

「弥栄菊さんと私の間に生まれた子です。遅すぎたことは承知しています。ですが、今この事実が明らかになった以上、弥生さんを引き取りたいと考えています」

薫子の声が部屋に響く。

「はぁ!?弥生さんが、どれだけうちを引っかき回してきたか!」
「本当に。今さら、よくそのようなことが」

鴇子も、肩を震わせるようにして言葉を重ねた。

「私だけじゃないわ!お母様も、お父様も、お兄様だって!五年もの間ずっとよ!」
「今さらであることは、私もわかっております」
「そうよ!弥生さんのせいで、瑠璃子さんとお兄様の縁談が流れたのよ!?」
「鴇子、薫子、黙りなさい」

宗景の重い声に、二人は押し黙る。
その沈黙を受けるように、嘉月がまた話し始めた。

「五年、弥生さんは東城院に置かれていた。その間のことを、なかったことにするつもりはありません」

そう言うと、嘉月は懐からもうひとつ封筒を取り出し、宗景の前へ静かに差し出す。

「この五年間の生活費として、受け取っていただきたい」
「嘉月さんっ!」

思わず声を上げてしまう。
封筒の厚さで、少ない額ではないことはすぐにわかった。
けれど、そんなふうに、自分の五年が金で数えられてしまうのが、たまらなく苦しい。

宗景は、封筒を触れもせず、見下ろしたあと、首を振った。

「それは受け取れん」
「しかし」
「娘として扱えなかった責はある。だが、我が子だと思い預かった子に値をつけるほど、東城院は落ちていない」