検査を受けた日の夜、なかなか寝つけなかった。
結果が出るのは明後日。
そうわかっているのに、胸の奥だけが先にその日へ行ってしまっているみたいで、どうにも落ち着かない。
もし違っていたら。
もし違っていなかったら。
どちらを思っても、怖い。
それなのに、胸のどこかでは、答えを待ってしまっている自分がいる。
そのことまで含めて、落ち着かなかった。
少しだけ外の空気を吸いたくなって、そっと障子を開ける。
廊下は静かで、屋敷の奥はもう寝静まっていた。
そのまま縁側へ出ると、先に人影が。
誰かなんて見なくても、その気配だけでわかってしまう。
「……兄さん」
月を見上げる横顔が、こちらを向く。
「起きていたのか」
「はい……なんだか、眠れなくて」
「そうか。俺もだ」
それだけ言って、千景は少しだけ身体をずらした。
隣に座ってもいいと言われた気がして、躊躇いながらその隣へ腰を下ろす。
夜の空気は少し冷たい。
けれど、隣にいる人の気配だけが妙にあたたかかった。
しばらく、二人とも何も言わない。
虫の声も、遠くの水音も、今夜はやけに小さく聞こえる。
静かなのに、胸の内だけが少しも静かにならなかった。
やがて千景が、月を見たまま口を開く。
「もし、兄妹でないとわかったら」
「はい」
指先が膝の上で小さくこわばる。
返した声は、自分でも驚くほど静かだった。
千景は少しだけ間を置いて、それから言った。
「俺はもう、我慢ができない」
思わず息を止めた。
千景は振り向かない。
月を見上げたまま、声だけが静かに落ちてくる。
「兄としてでなく、お前のそばにいたいと思う気持ちを、もう抑えきれない」
「兄さん……」
「今ですら、本当は、こうして隣に座っているだけでは足りない」
その言葉に、胸の奥が熱くなる。
苦しいのに、嬉しい。
嬉しいのに、やっぱり怖い。
その先を聞いてしまえば、明後日の答えが出る前から、もう後戻りできなくなる気がした。
「でも、まだわからない」
「はい」
「だから、結果が出るまでは何も言わないつもりだった」
そこで初めて、千景がこちらを見た。
「けれど、お前があまりにも不安そうな顔をしているから、黙っていられなくなってしまった」
思わず俯く。
見ないようにしていたのに。
隠していたつもりだったのに。
やっぱりこの人には、いつも見抜かれてしまう。
「……うちも、怖いです」
「何が」
「もし本当に違っていたら、と思うのも怖いし……もし、違っていなかったら、それも怖いです」
「弥生」
名前を呼ばれて、顔を上げる。
千景の手が、そっと手の甲に触れた。
今夜は人目がないのに、それでも触れ方はひどく慎重だった。
大事なものに触るみたいで、それが余計に胸にくる。
この人も、たぶん怖いのだと、その触れ方だけでわかった。
「どういう結果が出ようとも」
「……はい」
「お前が一人で背負うことではない」
その言葉だけで、泣きそうになりながら、こくりとまるで子供のように小さく頷く。
「どうであっても、俺の気持ちは変わらない。それだけは確かだ」
千景の指先が、ほんの少しだけ強く触れた。
それ以上は何も言わなかった。
何もできなかった。
ただ、千景は覚悟を決めたのだと、それだけはわかった。
二人で並んで、月を見上げる。
明後日になれば、きっと何かが変わる。
戻れないところ、行きつく先まで行ってしまうのかもしれない。
それでも今は、隣にあるぬくもりだけで十分。
明日のことも、明後日のことも、今だけは考えないでいたかった。
月の光だけが、二人のあいだを静かに照らしていた。
それが、妙にやさしい。
今夜だけは。
結果が出るのは明後日。
そうわかっているのに、胸の奥だけが先にその日へ行ってしまっているみたいで、どうにも落ち着かない。
もし違っていたら。
もし違っていなかったら。
どちらを思っても、怖い。
それなのに、胸のどこかでは、答えを待ってしまっている自分がいる。
そのことまで含めて、落ち着かなかった。
少しだけ外の空気を吸いたくなって、そっと障子を開ける。
廊下は静かで、屋敷の奥はもう寝静まっていた。
そのまま縁側へ出ると、先に人影が。
誰かなんて見なくても、その気配だけでわかってしまう。
「……兄さん」
月を見上げる横顔が、こちらを向く。
「起きていたのか」
「はい……なんだか、眠れなくて」
「そうか。俺もだ」
それだけ言って、千景は少しだけ身体をずらした。
隣に座ってもいいと言われた気がして、躊躇いながらその隣へ腰を下ろす。
夜の空気は少し冷たい。
けれど、隣にいる人の気配だけが妙にあたたかかった。
しばらく、二人とも何も言わない。
虫の声も、遠くの水音も、今夜はやけに小さく聞こえる。
静かなのに、胸の内だけが少しも静かにならなかった。
やがて千景が、月を見たまま口を開く。
「もし、兄妹でないとわかったら」
「はい」
指先が膝の上で小さくこわばる。
返した声は、自分でも驚くほど静かだった。
千景は少しだけ間を置いて、それから言った。
「俺はもう、我慢ができない」
思わず息を止めた。
千景は振り向かない。
月を見上げたまま、声だけが静かに落ちてくる。
「兄としてでなく、お前のそばにいたいと思う気持ちを、もう抑えきれない」
「兄さん……」
「今ですら、本当は、こうして隣に座っているだけでは足りない」
その言葉に、胸の奥が熱くなる。
苦しいのに、嬉しい。
嬉しいのに、やっぱり怖い。
その先を聞いてしまえば、明後日の答えが出る前から、もう後戻りできなくなる気がした。
「でも、まだわからない」
「はい」
「だから、結果が出るまでは何も言わないつもりだった」
そこで初めて、千景がこちらを見た。
「けれど、お前があまりにも不安そうな顔をしているから、黙っていられなくなってしまった」
思わず俯く。
見ないようにしていたのに。
隠していたつもりだったのに。
やっぱりこの人には、いつも見抜かれてしまう。
「……うちも、怖いです」
「何が」
「もし本当に違っていたら、と思うのも怖いし……もし、違っていなかったら、それも怖いです」
「弥生」
名前を呼ばれて、顔を上げる。
千景の手が、そっと手の甲に触れた。
今夜は人目がないのに、それでも触れ方はひどく慎重だった。
大事なものに触るみたいで、それが余計に胸にくる。
この人も、たぶん怖いのだと、その触れ方だけでわかった。
「どういう結果が出ようとも」
「……はい」
「お前が一人で背負うことではない」
その言葉だけで、泣きそうになりながら、こくりとまるで子供のように小さく頷く。
「どうであっても、俺の気持ちは変わらない。それだけは確かだ」
千景の指先が、ほんの少しだけ強く触れた。
それ以上は何も言わなかった。
何もできなかった。
ただ、千景は覚悟を決めたのだと、それだけはわかった。
二人で並んで、月を見上げる。
明後日になれば、きっと何かが変わる。
戻れないところ、行きつく先まで行ってしまうのかもしれない。
それでも今は、隣にあるぬくもりだけで十分。
明日のことも、明後日のことも、今だけは考えないでいたかった。
月の光だけが、二人のあいだを静かに照らしていた。
それが、妙にやさしい。
今夜だけは。



