梨園の花嫁〜歌舞伎の御曹司は、芸妓の娘の義妹を手放せない〜

十四歳になるころ。

千景は十六歳になっていた。
稽古の密度は前よりずっと増し、稽古場にいる時間も長くなった。
女方の稽古だけでなく、立役の稽古も増え、一日じゅう稽古場に籠もっていることも珍しくない。

朝から声が飛ぶ。足拍子が響く。
型を繰り返し、台詞を返し、また最初からやり直す。
稽古場の前を通るだけでも、その熱が襖越しに伝わってきた。

私は週に何度か稽古場に顔を出し、千景から求められれば感想を言った。
千景の女方が、日を追うごとに変わっていくのを見るのが、楽しみになってくる。

動きのひとつひとつが変わった、というだけではない。
佇まいの奥から滲むものが、少しずつ別物になっていく。
技術の積み重ねの先に、もうひとつ何か別の層が開いたような、そんな感じがした。
形が整った、では足りない。見ている側の息を、ふと止めさせる瞬間が増えていた。

「千之助の女方が変わった」

そんな声が、稽古に来た師匠から聞こえてきて、心の中で少しだけ嬉しくなる。
千景の才能と努力の賜物ではあるけれど、自分の言葉が、ほんの少しでも何かの役に立ったのかもしれない。
それは、この屋敷に来て二年で初めて覚える、ちゃんと役に立てたかもしれないという感覚だった。

ある日、薫子が千景の稽古場に来た。

廊下で私と千景が話しているところに、薫子が通りかかったのだ。
薫子はまず私を見て、それから千景を見る。
その順番が、なぜだか妙に胸に残った。

「お兄様、お稽古は終わったの?」
「今日は終わった」
「それじゃあ、一緒にお茶しましょうよ。お母さんが呼んでいるわ」
「ああ。では、また明日」

腹違いの兄妹であっても、私は決して呼ばれることのない場。
千景は、ほんの少しだけ私の方を気にするように視線を寄越し、それから薫子と並んで歩いていく。
薫子はその途中で、一度だけ振り返った。

その目が、何かを計っているように見えた。
何を、とはわからないけれど、ただ見ただけの目ではない。

気にしないようにして、自分の部屋へ戻る。
そういう視線には、いちいち意味を考えない方がいい。
そう思うようになっていた。