マスカレード・ダンス―私と踊ってくれますか?―

「レディ、私と一曲いかが?」
「あら、良いわよ」
 仮面を着けた男女が手を取り合い中央のホールに集まっていく。
 ここは仮面舞踏会、顔も名前も知らない相手と楽しく踊り・飲み・話す場所。ここでは身分も立場も関係ない。仮面を着ければその瞬間に一人の観客となり、男となり、女となり、主人公となる。
 
 ファミール王国のエルシャ宮殿では毎晩のように仮面舞踏会が開催されていた。数百年前に建てられた歴史あるこの宮殿は、それこそ当時は王族の別館の一つだったらしいが現在はほとんど使われておらず、それを勿体なく感じた現国王の従姉妹であるアルバが貰い受けたそうだ。
 アルバは外国の仮面舞踏会に何度も足を運ぶほど仮面舞踏会が好きだった。そこでは自分は王女ではなく、一人の人間として見てもらえる。好きなものを食べていいし、好きに踊って、好きにお話していいのだ。この自由で解放された空気が、お互いがお互いを探索しないのに心を通わせているような安心感が、それはそれは大好きだったのだ。
 みんなにも仮面舞踏会の良さを知ってもらいたいと考えたアルバは、この宮殿を舞踏会会場にすることを決めた。
 この宮殿の仮面舞踏会は身元の証明さえ出来れば誰でも参加することが可能だ。ドレスもタキシードも貸し出しされているし、食事もすべて無料。

 ルールはただ一つ。
『仮面を着けてくること』、これだけだ。

 王族が管理し誰でも参加無料のこの仮面舞踏会はまたたく間に人気になった。連日ホールには沢山の人、美味しい食事にオーケストラによる生演奏、豪華なホールにはシャンデリアが飾られており、人々はみな美しいドレスやタキシードを身に纏う。庶民からするとそれはもう夢のような時間であり、貴族にとっては数少ない自由な時間であった。

 エルシャ宮殿には今日も、仮面を着け素性を隠し舞踏会へ参加する客が大勢いる。

 皆さまも是非ご参加ください。
 飛び入り参加も大歓迎です。
 身分や立場など忘れて、自由に踊ってみませんか?
 ―エルシャ宮殿・仮面舞踏会総支配人 アルバ