『ドリアン山の最後の二等兵』~桃色の寺の菩提樹の下で~



 袈裟(けさ)は、思ったより軽かった。

 (だいだい)色の布を体に巻きつける作法を、老僧は言葉なしで教えた。

 手で示し、相沢の手を取り、布の端を折り込んだ。

 軍服は境内の隅で燃やされた。

 煙が細く立ち上り、風に流れ、ジャングルの上へ消えていった。

 相沢は煙を見送りながら、自分が今何をしているのか、正確には分かっていなかった。

 命令だから従った―軍曹の最後の命令だから……。

 それだけだった―信仰ではなかった。

 悟りでもなかった。

 ただ、他に行く場所がなかった。 

 その夜、老僧は相沢に一枚の葉を差し出した。 

 バナナの葉に、白い米と魚の欠片(かけら)が乗っている。 

 相沢は受け取った。

 米を口に入れた瞬間、喉が締まった。 

 ここの村から盗んだ米のことを思った。 

 奪った鶏のことを思った。 

 細い骨が指の中で震えた感触が、まだ手のひらに残っている気がした。

 飲み込んだ―飲み込むしかなかった。

 翌朝から、相沢の新しい時間が始まった。

 夜明け前に起き、本堂を掃く、線香に火を入れる。

 老僧の後ろについて石段を下り、村へ托鉢(たくはつ)に出る。 

 托鉢の(はち)を胸の前に抱え、下を向いて歩く。 

 村人たちは黙って米や食物を入れた。

 相沢の顔を見て、立ち止まる者もいた。

 それが誰であるか気づいた顔もあった。

 だが、誰も声を上げなかった。

 連合軍は三日後に村を去った。

 その間、誰も寺にいる相沢のことを話さなかった。

 相沢はそのことを、後になって知った。

 あの女性が口を閉じていたのか、村全体が沈黙したのか、相沢には分からなかった。

 ただ、橙色の衣をまとった見知らぬ僧侶として、相沢は村の朝の中に溶け込んでいた。

 言葉は通じなかった。

 だが托鉢は毎朝続いた。

 米が鉢に落ちる音が毎朝した。

 それだけが、相沢と村をつなぐ細い糸だった……。