追い出された白猫姫は、王太子にお猫様として溺愛される

翌朝は、よく晴れていた。
五月のやわらかな日差しが窓から差し込むなか、ミレイユの寝室は早朝から落ち着かない。
侍女頭を筆頭に侍女たちが四人がかりで支度を整え、薄いプラチナブロンドの髪は複雑なアップスタイルに結い上げられ、真珠のピンが何本も差し込まれていく。

「少しだけ、頬紅を足しましょう」

侍女頭がそっとブラシを当てる。
ミレイユはされるがままになりながら、窓の外へ目を向けていた。
青い空がまぶしい。こんなにも穏やかな朝なのに、部屋の中だけが妙にせわしない。

「失礼いたします」

居室の扉が開いた。
入ってきたのは、見知らぬ侍女だった。

黒い髪に、榛色の目。二十代半ばほどだろうか。
顔立ちは整っているのに、どこか掴みどころがない。
口元は笑っているのに、その笑みが顔に貼りついているように見えた。

「あら、あなたは?」

侍女頭が眉を顰める。

「侯爵家よりご挨拶のお花をお届けに参りました。本日より、婚約式の式典補佐侍女として仰せつかっております、ミランダと申します」

ミランダと名乗った侍女は、深々と礼をした。

(式典補佐侍女?)

ミレイユは小さく首を傾げる。
そういう役職があることは知っていたが、自分のもとへ配置されるとは聞いていなかった。

「お父様からは何も聞いてないけど」
「昨夜、急遽決まったとのことでございます。ブランシュフォール公爵閣下よりのご命令で、式典中のミレイユ様のお世話を担当するよう言いつかっております」

よどみのない返答だった。
整いすぎていて、かえって引っかかる。

侍女頭はすぐに別の使用人へ確認を取りに向かった。
そのあいだも、ミランダはにこやかに立っていた。
姿勢も、礼の角度も、声の調子も申し分ない。けれど、見れば見るほど落ち着かない。

ミレイユはその笑顔を見ながら、何となく居心地の悪さを覚えた。
目が笑っていない。
笑顔はあるのに、目の奥には何もない。

(まあ、今日と明日だけのことだし)

そう自分に言い聞かせて、ミレイユはひとまず、それ以上気にしないことにした。