追い出された白猫姫は、王太子にお猫様として溺愛される

その夜、ブランシュフォール公爵家は、いつになく慌ただしかった。
明日の婚約式に備え、使用人たちは遅くまで屋敷中を動き回っている。
厨房では翌日の会食の支度が進み、玄関ホールには運び込まれた花が次々と飾られ、ミレイユの居室では最後の衣装合わせが行われていた。

婚約式の衣装は、淡い金色のドレスだった。
胸元と裾には白い刺繍が施され、ブランシュフォール家の家紋である百合の花が、細やかに、けれど上品に縫い込まれている。
仕立て屋が三か月をかけて仕上げた、渾身の一着だ。

「おきれいです、お嬢様」

若い侍女が、うっとりと息をつくように言った。
ミレイユは鏡の中の自分を見る。

たしかに、ドレスは美しかった。
光を受けるたびに淡い金がやわらかく揺れて、白い刺繍が浮かび上がる。
着ている人間がどうであれ、この一着が見事であることに変わりはない。

(まあ、これなら大丈夫かな)」

少なくとも、服のせいで失敗することはなさそうだった。

「ねえ、明日の作法の確認をもう一度してもいい?挨拶の文句は覚えたけど、礼の深さのタイミングがちょっと不安で」
「もちろんでございます!」

侍女頭が、ぱっと顔を輝かせる。
ミレイユが自分から準備に取り組もうとするのは珍しい。
そのせいか、返事に妙な弾みがあった。

作法の確認をひと通り終え、ミレイユが床に就いたのは深夜近くだった。
天蓋付きのベッドに横になり、目を閉じる。

昼間までは、どこか他人事のように思っていたのに。
いざ眠ろうとすると、明日のことがじわじわ胸に満ちてきた。
今度は本物の緊張だった。

(王太子殿下、どんな人だろう)

問いかけは宙に浮いたまま、答えを持たないまま、ミレイユは眠りに落ちた。