追い出された白猫姫は、王太子にお猫様として溺愛される

その日の昼。
殿下が午前の謁見から戻ってくると、執務室の前の廊下に侍女が三人立っていた。

「何をしている」
「あの……お猫様に、ご挨拶をと思いまして」

三人のうち一人が、緊張した面持ちで言う。
十代後半くらいの侍女たちで、手には小さな花束を持っていた。

「ミィに花を持ってきたのか」
「春の花は猫に有害なものも多いので、調べまして、ラベンダーにいたしました」
「無理強いしないなら構わない」

殿下が少しのあいだ侍女たちを見たあと、入室を許す。
三人がそろって執務室へ入ってくる。
ミレイユはソファの上から、その様子をじっと観察した。

「お猫様……!」

侍女の一人が小声で叫んだ。

「白くて……ピンクのリボンで……!なんと可愛らしい……!」
「肉球まで、可愛いピンク色!」

「ミャァ(ご挨拶はラベンダーかしら。猫への配慮があるのは嬉しいけど)」

差し出された花束から、やわらかい香りがした。
強すぎず、鼻に痛くない。ちゃんと調べてきたというのは本当らしい。

ミレイユはソファからゆっくり立ち上がり、端を歩いて侍女たちのほうへ向かった。
急に駆け寄ると驚かせる気がして、少しだけ慎重になる。

「あっ、来てくれた……!」
「ミャー(みんな、猫が好きなのかな)」

侍女たちが小声でざわめく。
ミレイユは三人の前で止まり、順番に顔を見上げた。
緊張した顔、嬉しそうな顔、今にも泣きそうな顔。

いや——それだけではないのかもしれない。
『猫は不吉』という宮廷の空気の中で、殿下に拾われ、しかもリボンまでつけてもらっている白猫。
そのこと自体が、何か特別なものとして映っているのだろう。

ミレイユは侍女たちの前に座り、ゆっくりまばたきをした。
すると三人が一斉に、胸を押さえるみたいな顔になる。

「いま……まばたきを……」
「こちらにご挨拶を……?」
「なんてお利口なの……」

(……まあ、悪い気はしない……かもしれない)

少なくとも、箒で追い立てられていた頃よりは、ずっといい。
そう思いながら、ミレイユはもう一度だけ、ゆっくりと目を細めた。