追い出された白猫姫は、王太子にお猫様として溺愛される

王宮に忍び込んで五日目。
うっかり魔女に見つかってしまい、ミレイユの王宮生活は一気に難易度が上がった。

どうやら魔女が「庭の猫を追い出すように」と命じたらしい。
そのせいで、侍従の一人が毎日庭を見回るようになった。
中年の、いかにも几帳面そうな男で、生け垣の外を歩くだけでは飽き足らず、葉の隙間を覗き込み、時には枝をかき分けて中まで確認してくる。

ここまでされると、もう執念である。
ミレイユは彼を心の中で『几帳面さん』と呼ぶことにした。

几帳面さんとの追いかけっこは、あっという間に日課になった。
彼が庭に現れるのは、朝と夕の二回。
だいたい時間も決まっているので、そこを外して動けばいい——と言いたいところだが、空腹や雨や、うっかり居眠りという不確定要素があるのでそう簡単でもない。

ミレイユはその時間帯、倉庫の屋根の上か、本棟の壁際に張り出した飾り棚の陰に潜むようになった。
どちらも几帳面さんの盲点だ。

倉庫の屋根へ上がるには、近くの木を経由しなければならない。
最初は枝の上で足がすくみかけたけれど、猫の体は人間の想像以上によくできていた。
細い足場でもするすると渡れるし、爪がしっかり引っかかるので滑りにくい。
高い場所が思ったより怖くないのも、猫ならではだった。
むしろ一度慣れてしまうと、地面にいるほうが人の目が近くて落ち着かないくらいだ。

ただし。

倉庫の屋根から見える本棟の窓に、ときどき見知らぬ人物が現れることがあった。
それが誰なのか、距離がありすぎて顔まではわからない。
けれど金色の刺繍の入った濃紺の上衣を着ている。
その立ち姿にも、なんとなく人の上に立つ者らしい静かな圧があった。

(あれが……王太子殿下?)

確証はない。
でも着衣の格から考えれば、かなり上位の人物だろう。
ミレイユは屋根の端に腹ばいになり、雨樋に前足をかけたまま、その窓をじっと見つめた。
遠い。遠いけれど、目が離せなかった。