あらくも、みやびに

君は知らないことでしょう。
春風が頬をくすぐる窓際で、教科書を半分こしたあの日。うららかな日差しを浴びながら、すやりとまつ毛を震わす君に心を奪われたことなんて。人気者の君相手に、身の程知らずになってしまった私に気づくはずもない。休み時間になんて話せない、そんな君が授業中にこっそり私のノートの端にいたずら書きをした。そのノートは使い切っているのに、いまだに私の机の引き出しにひっそり仕舞われているのです。
卒業の日、たまたま下駄箱で会えた君。寄せ書きでもしたのか、カバンが文字だらけ。君は、私を見つけて人懐っこい笑顔になる。
「おっ!最後、誰と帰んの?」
「友達と。」
「そうなんだ。俺は部活の奴らと!」
「仲良いね。」
「まぁ、三年間一緒にいたらな。そういえば、なんか色々世話になったな!」
君がそう言った。どれのことだろう。クラスを巻き込んで大騒ぎの君の姿が思い浮かぶ。どれも楽しそうな笑顔。でも、私がとびきり好きなのは、君の寝顔だった。思い出を重ねるように、私が君を見つめると、君はぱっちりとした目で、私の顔を覗き込んで笑った。
「今度会えるなら、成人式だな!」
そう言った彼の笑顔に、私の心は、ぐちゃり、と音を立てたのでした。