悪役令嬢の追放からの逆転スローライフ〜辺境公爵の『溺愛業務』を請け負います〜

結婚の翌朝、リリアーナが目覚めると、隣のベッドは空だった。
彼女は、カインが研究室にいるのだろうと思い、身を起こそうとしたが、身体が動かなかった。

「起きるには、まだ早い」

カインの声がした。
彼は、ベッドサイドの椅子に座り、魔導端末を操作していた。
彼の視線は端末に向けられていたが、リリアーナの魔力の変化を感知し、彼女が目覚めたことを知ったのだ。

「カイン様、おはようございます。もう、日の出の時間ですが……」
「貴女の体内の魔力安定度を、過去のデータと比較分析している。結婚式という高負荷の儀式を終えた後、最低三時間の連続休息が必要だ。この時間は、貴女の業務スケジュールに含まれている」

カインは、端末を操作しながら、リリアーナの体温がわずかに上がったことを察知し、布団の端を整えた。
彼の溺愛は、朝の目覚めの時間さえも、科学的な管理下に置いていた。

「わたくしは、もう完全に回復しています。古代遺跡の最終報告書の作成に取り掛かりたいのですが」
「論外だ。魔力の過信は、非効率を招く」

カインは、端末を置き、リリアーナに向き直った。

「貴女は、私の妻となった。貴女の安全と健康は、もはや契約ではなく、私の存在理由となった。故に、貴女の体調管理は、以前よりもさらに厳格化される」

カインは、リリアーナのために自ら用意した朝食を、ベッドサイドのテーブルに置いた。
それは、リリアーナが提案した栄養満点のポタージュと、カイン専属のパティシエが作った、高カロリーだが極めて美味しいフルーツタルトだった。

「まず、食事業務を開始しろ。このタルトは、貴女の新しい体型に最適化されたカロリー調整がされている。貴女は、この辺境の環境に適応した、豊満で、魔力供給に優れた肉体を維持しなければならない。これは、私の愛の証明であり、貴女の業務だ」

リリアーナは、カインの冷徹な命令の裏にある、甘い要求を理解していた。
彼女は、彼の愛情を受け入れることが、最高の幸福であることを知っている。

「かしこまりました、カイン様。わたくしは、貴方様の愛の業務を、喜んで遂行いたします」

リリアーナは、タルトを一口食べた。
その甘さと、カインの献身的な視線が、彼女の心を温める。

朝食後、カインはリリアーナを研究室には向かわせなかった。
代わりに、彼はリリアーナを連れ、館の裏庭へと向かった。
裏庭には、精霊樹が清浄な光を放ち、周囲には、リリアーナの生命魔力で活性化した薬草畑が広がっていた。

カインは、リリアーナの手に、古代魔導技術で作られた、精巧な園芸用スコップを渡した。

「貴女の聖女の力は、植物の世話という『家事スキル』によって最も安定する。貴女の新しい業務は、このアウロラ領全体を、古代の楽園へと完全に変貌させることだ。これは、私の計画における、持続可能な国土開発だ」

リリアーナは、目を輝かせた。
彼女の『家事スキル』が、今、公爵夫人の最も重要な『公務』となったのだ。

「そして、この庭園の作業は、必ず私と共に行う。貴女の生命魔力の波動を、私の闇属性魔力で包み込む必要がある。これにより、貴女の力の機密性を確保すると同時に、二人の魔力の融合を促進させる」

カインは、リリアーナの隣に立ち、彼女の園芸作業を、一歩も離れずに観察した。
彼は、リリアーナが土に触れ、生命魔力を注ぎ込むたびに、その波動が自分の魔力と調和し、増幅されるのを感じていた。
それは、彼にとって、最高の研究であり、最高の幸福だった。

「リリアーナ。貴女の魔力の放出曲線は、安定している。貴女がこの作業を楽しんでいる証拠だ」

カインは、リリアーナの頬に、作業着越しにキスをした。

「貴女の幸福は、私に不可欠だ。故に、この作業は、貴女の喜びの業務として、今後も継続される」

リリアーナは、カインの顔を見上げ、笑った。
彼の愛は、常に論理と業務に満ちているが、その根底にあるのは、彼女の幸福を何よりも願う、純粋で強烈な愛情だ。

「カイン様。わたくしの喜びの業務に、貴方様が付き合ってくださることが、何よりも嬉しいです」

二人の関係は、もはや『契約』や『義務』を超越していた。
それは、互いの存在と能力を、最高効率で肯定し、愛し合うという、究極の『共依存』の形だった。

午後は、彼らの『新婚旅行』の時間だった。
しかし、その旅行もまた、彼らの研究と支配欲に満ちていた。

カインは、リリアーナを連れて、アウロラ領の奥深くに隠された古代遺跡へと向かった。
古代遺跡は、既に結界が解かれ、内部の技術はカインによって全て掌握されていた。

「リリアーナ。これが、貴女の聖女の力で解き放たれた、古代文明の叡智だ」

カインは、遺跡の奥深くにある、巨大な魔導炉をリリアーナに見せた。

「我々の愛と支配が、この力の全てを掌握した。この力を使えば、この王国全体を、魔族の侵攻から守り抜く、新たな防衛システムを構築できる」

彼らの『新婚旅行』は、世界を救うための最終計画の立案であり、その場所は、彼らの愛が結晶となった古代遺跡の中だった。

「しかし、カイン様。この古代魔導技術の管理は、貴方様一人で行うのは、非効率ではありませんか?わたくしにも、何か手伝えることはありませんか?」

カインは、リリアーナの言葉を待っていたかのように、彼女に微笑んだ。
その微笑みは、冷たい氷が溶け始めた後の、柔らかい輝きを帯びていた。

「貴女の論理は、常に正しい。貴女の役割は、極めて重要だ」

カインは、リリアーナの手を取り、古代魔導炉の上に掲げた。

「貴女は、この技術の生命力供給源となってほしい」

カインは、リリアーナの聖女の力と、自分の闇属性魔力が融合した、結婚指輪を指さした。

「この指輪は、貴女の生命魔力を、安定したエネルギーとして、この魔導炉に供給する。貴女の聖女の力は、この世界の防衛システムの、心臓となるのだ」

リリアーナは、感動に震えた。
彼女の力が、世界を救うという、最も重要なプロジェクトの核となる。
そして、その力は、カインの愛と支配の下で、最も安全に、最も効率的に活用されるのだ。

「そして、私は、その心臓を守るための、絶対的な守護者となる。貴女の命と魔力は、このシステムの持続可能性に不可欠だ。故に、私は、貴女の安全を、永遠に、私の命を懸けて管理し続ける」

カインは、リリアーナの額にキスをした。
彼の言葉は、もはや義務でも契約でもなく、彼自身の愛の誓いだった。

二人は、その夜、館の最上階にある、彼らの寝室に戻った。
寝室は、カインの魔力と、リリアーナの生命魔力によって、最も穏やかで、最も安全な空間となっていた。

カインは、リリアーナのウェディングドレスを優しく脱がせ、彼女の新しい体型を、賞賛の視線で見つめた。
彼の目は、彼女の健康的な美しさと、自分の管理成果に、深い満足を示していた。

「貴女の体型は、完璧だ。最高の防御力と、魔力供給能力を備えている。そして、貴女の肌から発せられる魔力の波動は、私の魔力を最高に安定させる」

カインは、リリアーナの肌に触れ、リリアーナを抱き上げ、ベッドに横たわらせた。
彼の愛は、常に論理と分析を伴うが、その身体的な触れ合いは、常に情熱的で、彼女の存在を深く渇望するものだった。

「リリアーナ。この愛は、永遠に続く。貴女の体と心は、私の支配の下にある。そして、私は、貴女の幸福を、永遠の業務として、管理し続ける」

カインは、リリアーナの身体を抱き締め、彼女の魔力に、自分の魔力を同調させた。
彼の冷たい魔力と、彼女の温かい生命魔力は、融合し、一つの安定した流れとなった。

リリアーナは、カインの胸元に顔を埋め、微笑んだ。
彼女は、元社畜OLとして、論理と効率を愛し、最高の安全を求めた。
そして、彼女は、その全てを、この冷徹で、独占欲の強い公爵の愛の中で手に入れた。

「ええ、カイン様。わたくしは、この甘くて、長すぎる溺愛生活を、心から楽しませていただきます」

彼女の愛の言葉は、カインの心臓を、彼の論理回路さえも予測できないほどの幸福感で満たした。

彼の溺愛ファンタジーは、ハッピーエンドを迎えたのではない。
それは、二人の愛と支配が、世界を救うという、壮大な共同経営へと続く、永遠の物語の始まりだった。
彼らの甘くて長い溺愛生活は、今、静かに幕を開けたのだ。