転生した子供部屋悪役令嬢は、悠々快適溺愛ライフを満喫したい!

「国王陛下のご意志として、王太子殿下が……クローバー公爵令嬢とのご婚約を望まれます」

……は?

……今、なんて言った?
誰と誰が、婚約を望まれる?ご婚約つった??

え、ちょっと待って!?
先日ようやくルシアンとの婚約が破棄されたばかりだよね!?
なのに今日からエドと!?そんな切り替えガチャみたいなノリで!?

「殿下もお間違いないですか?」

宰相がエドに確認する。
おいおい、こんなん間違いだらけだろ!!!

「私の意志です」

……はぁぁぁぁああ!?!?

お前、つい最近まで家庭教師だよね!?
確かに街中では手を繋いだし、恋人繋ぎもしたけど……あれは勢いっていうか……

「ありがたく拝受いたします」

父ぃぃぃぃぃいいいい!!!!!
勝手に受け入れないでよ!!!
私の意見、完全スルー!?ありがたくないから!!

……あれ?ひょっとしてこの空気、私だけが知らなかったパターン……?
兄たちすら『知ってました』みたいな顔してるんだけど!?
いやいや、守秘義務とかいらんだろ!?私、当事者なんですけど!?

「以上をもちまして、国王陛下の御意志を伝え終えました」
「ご快諾に感謝いたします」

え、ちょっと待って。快諾したのは父であって、私はまだ一言も喋ってないよね!?
なのに、もう全部決まったみたいな空気……

そのまま宰相は一礼して退室。
続いて父や母、兄たちも立ち上がり、次々に出て行く。
兄がエドに何か耳打ちしてる?
残された私は、ただ椅子に座ったまま固まっていた。

……終わった?本当に?

『ご快諾に感謝』って言ってたけど、快諾したのは父で、私は快諾してないし。
ツッコむ暇すら与えられなかった……

婚約……決定、しちゃったの?

頭が追いつかない。
昨日まで『婚約破棄された悪役令嬢』だったのに、今日からは『王太子の婚約者』って、どんなジェットコースターだよ。

ふらふらと自室に戻り、侍女にドレスを脱がされる。
ネグリジェに着替えたけれど、本を開く気力すら湧かない。

ベッドに沈み込み、天井を見つめる。
さっきの出来事が現実だなんて、まだ信じられなかった。

私、ほんとに婚約しちゃったの?

……婚約。
本当に、婚約しちゃったんだ。

ぽつりと、ドレスを片付けてくれている侍女に問いかけてみる。

「……婚約破棄って、できちゃったりしないのかな~?」

手を動かしていた侍女が一瞬ぴたりと止まり、妙に真剣な声で返す。

「閨を共にされた後は、いかなる事情があれど……」

……え?
閨って……まさか先日の?いやいやいや!
何もなかったし!?ただ泊まっただけだし!?
でも、確かに同じベッドだった……起きたら隣にいた……

「ちょ、ちょっと待って!あの時も否定したけど、ほんとに何もなかったから!ねぇ!」

必死に否定する私に、侍女は一瞬目を瞬かせて……そして、妙に優しい、何かを悟ったような微笑を浮かべた。

「ええ、存じております。お嬢様がそう仰るのですから」

え!?何その目!!
絶対何もなかったけど、あったって思ってるでしょ!?

「ご安心ください。ここでのことを、私どもが軽々しく口外するようなことはございません」

いやいやいやいやいや!!違う違う違う!!
ほんとに何もなかったんだってば!!
くっそ……こうなるってわかってて泊まったんだな、あいつ……!

……エドの野郎!!はめやがったな!!!!



「ちょっと二人だけにして」

さんざんネグリジェからの着替えを促してきた侍女を部屋から追い出す。
二人きりになった部屋。もちろん、そこにいるのは、正式に……こ、婚約者になってしまったらしいエド。

「お前……私をはめただろ?」

ソファに悠々と座るエドを問い詰めると、彼は首を傾げて小さく笑った。

「……どのことだろう?」
「どのって、お前……心当たりがいっぱいあるってことかよ!!!」

思わず、ぐったりとエドの正面のソファに腰を落とす。

「昨日の感じだと、こ、この婚約……だいぶ前に決まってたよな?」
「気が付いてなかったのか?」

すっと立ち上がったエドが、当然のように私の隣に腰を下ろす。
……ダメだ。近くに来られると、どうしてもこいつのペースに流されてしまう。
慌てて姿勢を正し、ソファの端に移動して距離を取る。

「君はストールを受け取っただろう?」

ストール……?紫色の、今も身につけているやつ?

「は?何でこれが関係あるの?」
「紫は禁色。王族以外が身につけることは許されない」

禁色?王族しか?

「つまりあれが婚約内定の証であり、受け取った時点で承諾したことになる」
「そ、そんな前から!!!?」

……お見舞いのお礼とか、完全に出来レースじゃねーか!!
ってことは……父も最初からグルだったってことか!?

あまりの衝撃に頭を抱えていると、気が付けばエドがさらに近づき、紫のストールの裾を軽く摘まんでいた。

「……いつも大切に身に着けてくれて、俺は嬉しかったんだが」
「だ、だからって説明ゼロで渡すなよ!?」

んな……!!!ってことをさらっと言うんだこいつは!!

「じゃあ……その後の家庭教師も、この前の市政調査も……全部最初から計画通りだったってこと!?」
「人聞きが悪いな。少し懸念があったから、慎重になっただけだ」
「私の気持ちは完全スルーかよ!!」
「……確かに。君の気持ちを蔑ろにしたのは否めない」

……え。急にしおらしくなるなよ。調子狂うじゃん……
って、ちょっと!さりげなく手に触れるな!!じっと見つめるな!!髪に触んな!!

「それでも……俺は、どうしてもアリエルが良かったんだ」

あ゛~~~~!!当たり前みたいに髪に口づけとかしてんなよ!!
なんか声のトーンまで変わってるし!!

昨日の流れでさ、もう断れる段階じゃないってのは、わかってる。
でもさ。私は医者として死ぬほど働いて、文字通り死んだんだよ?
せめて転生くらいご褒美で、一生ダラダラさせてくれてもよくない!?
どこで道を間違えたんだ、私……

「……何もない時は、ネグリジェで部屋に転がってダラダラしてたい……」
「いいね。俺も隣で一緒にくつろがせてもらえるかな?」
「は!?いやだよ!?ダラダラは一人でやるから意味あるんじゃん!」

何だよこの王子……
この間はあんなに真面目くさってたくせに、今日はまたこれか。
ほんっと調子が狂う。

「……でも」

ソファの背にもたれていたエドが、ふっと笑みを深める。

「どんな君でも、俺は大事にするよ」

はい、強引に話を逸らした。
絶対に私の話、聞く気なかっただろ……

気が付けば、また手が重ねられている。
いくらでも振りほどけるはずなのに……ほんの少し、その体温が心地よく感じてしまう自分が悔しい。