痛い……苦しい……
胸の奥が、ぎゅうっと張り裂けそうで、呼吸すらままならない。
息をするたび、胸骨の裏側を針で抉られているみたいに痛くて、喉の奥まで熱がこみあげる。
悲しい……辛い……
どうして、こんな……
もう、やめて……!
「……!!!やめて!!!」
掠れた叫びが勝手に口を突いて出る。涙が溢れて視界はぼやけ、ぼんやりと滲んだ光の向こうに伸ばした手は、空を掴むばかりで何も捉えられない。耳の奥で血の音がごうごうと響き、世界が遠のく。
「!お嬢様!意識が……!」
「すぐ医師と旦那様にご連絡を……!」
……医師は私だが?お嬢様?旦那様??
混乱する頭に意味不明な単語が突き刺さる。
「ちょ、まっ……!!!いってぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
突如、後頭部に電撃のような痛みが走り、思わず頭を抱えた。
ずきずきと脈打つ痛みに涙がにじむ。
「お嬢様!いきなり起き上がってはいけません!」
慌てて支えてくれた人物の顔を見て、私は息を飲む。
栗色の髪がさらりと揺れ、翡翠のように透き通る緑の瞳。……めちゃくちゃ美人!!
え、え、外国人!?モデル!?ここどこ!?頭の中で疑問符が乱舞する。
混乱していると、バンッと勢いよくドアが開き、豪奢な衣装を纏った男女が駆け寄ってきた。
「あぁ!!アリエル!!」
「良かった……!もう目覚めないかと……!」
アリエル??今、私をそう呼んだよね??
しかも、目の前の二人、ハリウッド俳優と女優ですか?ってレベルの美貌なんですけど!?
女性の方なんて、涙まで流して心底喜んでる。
は?なにこれ??ドッキリ番組??隠しカメラどこ???
「先ほどから、混乱されてるようで……」
「とりあえず、医師の到着を待とう」
だから、医師は私だっつーの!!!
「待って……!」
声を振り絞って静止を無視し、再び身を起こした瞬間……バランスを崩して、そのままベッドからごろんと落ちた。
「アリエル!大丈夫か!?」
「い、いて……」
「お嬢様……ご無理をされては……」
痛みに顔をしかめながらも、ふと視線が部屋の隅にあった大きな鏡に吸い寄せられる。
そこに映っていたのは……私じゃない誰か。
見慣れた自分の姿とは似ても似つかない。
ひっつめ髪に、徹夜と激務で沈着したクマと肌荒れ。
サプリなんて全然効かない、ガサガサの肌。
ガリッガリの身体に、ブラも要らないまな板胸。
……それが、本来の姿の……はず……
けれど今、鏡の中にいるのは……
薄桃色を含んだ金髪が、腰までゆるやかに波打って流れ落ちている。
まるでビスクドール。まつ毛なんて、エクステ何百本つけたの?ってくらい長い。
大きな瞳は宝石のような紫で、きらきらと光を反射する。
唇は熟れた桃のようにほんのりピンクで、肌は雪みたいに白い。
……え、これマジですっぴん??詐欺レベルの美少女なんですけど!?
細い首筋、華奢な肩、しなやかな手足。そして……
目を下げれば、見慣れぬふくらみ。
メロンかってくらいでかい胸が、そこにどーんと鎮座していた。
さっきまで気にならなかったのに、意識した途端、重力をこれでもかと感じる。
こ、これ……豊胸じゃねーの……?え、持ち上げたら中身ばれる??
恐る恐る両手で抱え上げる。
「お嬢様!?」
ずしりと伝わる重み、柔らかい弾力、体温。……シリコンじゃない。本物だ。
その事実を脳が理解した瞬間、天を仰ぎ……再び意識が闇に落ちていった。
「アリエル!?アリエル!!」
遠ざかる呼び声を最後に、記憶の奥から自分の人生が鮮やかに蘇る。
……医者なんて、なるもんじゃない。
平々凡々な子供時代を終わらせようと、中学デビューを狙って惨敗。
外見磨きに必死になってダイエットした結果、骨と皮だけの鶏ガラ完成。
それでも勉強だけは、と食らいつき、日本最高峰の大学に合格。
医師免許を手にして研修医を経て、堂々と医師の仲間入り。
これだけのスペックなら……モテると思うだろ?全っ然!モテない!!
『俺より賢い女はちょっと』とか『将来開業して養って』とか。ふざけんな。
いや、こっちにも選ぶ権利あるからな!?
そもそも、私は誰かに寄りかかる人生を考えたことなんてなかった。
疲れて帰って、寝る前にマンガやラノベを読んでアニメ観てキュンとする。それで充分。
休みの日は数少ない友達と会って、また仕事漬けの毎日。
それでも……一人の人生も、悪くないと思っていた。
単身用のマンション買って、一生独身で気ままに仕事して……
そんな未来すら、悪くないと思ってた。
病院と自宅を往復し、三日三晩オペに立ち会い、食事は栄養補給食をエナドリで流し込む。
最後の日は、何本飲んだかすら覚えてない。
……そら死ぬわ。私が主治医ならめちゃくちゃ生活習慣の見直し提案するわ。
医者の不養生、ここに極まり過ぎだろ…
『医者になるもんじゃない』……そう言ったけど。
患者さんが元気になって、『ありがとう』と笑顔で退院していく姿。あれが嬉しくて、やりがいで。
救えない命もあったけれど、それでも、あの一言で生きていけた。
家族も、友人も、やりがいのある仕事もあったのに。
それでも……人生は、あっけなかった。
たった29年。短すぎる人生。
そうか。私は死んだのか。
西村涼子……享年29歳。
胸の奥が、ぎゅうっと張り裂けそうで、呼吸すらままならない。
息をするたび、胸骨の裏側を針で抉られているみたいに痛くて、喉の奥まで熱がこみあげる。
悲しい……辛い……
どうして、こんな……
もう、やめて……!
「……!!!やめて!!!」
掠れた叫びが勝手に口を突いて出る。涙が溢れて視界はぼやけ、ぼんやりと滲んだ光の向こうに伸ばした手は、空を掴むばかりで何も捉えられない。耳の奥で血の音がごうごうと響き、世界が遠のく。
「!お嬢様!意識が……!」
「すぐ医師と旦那様にご連絡を……!」
……医師は私だが?お嬢様?旦那様??
混乱する頭に意味不明な単語が突き刺さる。
「ちょ、まっ……!!!いってぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
突如、後頭部に電撃のような痛みが走り、思わず頭を抱えた。
ずきずきと脈打つ痛みに涙がにじむ。
「お嬢様!いきなり起き上がってはいけません!」
慌てて支えてくれた人物の顔を見て、私は息を飲む。
栗色の髪がさらりと揺れ、翡翠のように透き通る緑の瞳。……めちゃくちゃ美人!!
え、え、外国人!?モデル!?ここどこ!?頭の中で疑問符が乱舞する。
混乱していると、バンッと勢いよくドアが開き、豪奢な衣装を纏った男女が駆け寄ってきた。
「あぁ!!アリエル!!」
「良かった……!もう目覚めないかと……!」
アリエル??今、私をそう呼んだよね??
しかも、目の前の二人、ハリウッド俳優と女優ですか?ってレベルの美貌なんですけど!?
女性の方なんて、涙まで流して心底喜んでる。
は?なにこれ??ドッキリ番組??隠しカメラどこ???
「先ほどから、混乱されてるようで……」
「とりあえず、医師の到着を待とう」
だから、医師は私だっつーの!!!
「待って……!」
声を振り絞って静止を無視し、再び身を起こした瞬間……バランスを崩して、そのままベッドからごろんと落ちた。
「アリエル!大丈夫か!?」
「い、いて……」
「お嬢様……ご無理をされては……」
痛みに顔をしかめながらも、ふと視線が部屋の隅にあった大きな鏡に吸い寄せられる。
そこに映っていたのは……私じゃない誰か。
見慣れた自分の姿とは似ても似つかない。
ひっつめ髪に、徹夜と激務で沈着したクマと肌荒れ。
サプリなんて全然効かない、ガサガサの肌。
ガリッガリの身体に、ブラも要らないまな板胸。
……それが、本来の姿の……はず……
けれど今、鏡の中にいるのは……
薄桃色を含んだ金髪が、腰までゆるやかに波打って流れ落ちている。
まるでビスクドール。まつ毛なんて、エクステ何百本つけたの?ってくらい長い。
大きな瞳は宝石のような紫で、きらきらと光を反射する。
唇は熟れた桃のようにほんのりピンクで、肌は雪みたいに白い。
……え、これマジですっぴん??詐欺レベルの美少女なんですけど!?
細い首筋、華奢な肩、しなやかな手足。そして……
目を下げれば、見慣れぬふくらみ。
メロンかってくらいでかい胸が、そこにどーんと鎮座していた。
さっきまで気にならなかったのに、意識した途端、重力をこれでもかと感じる。
こ、これ……豊胸じゃねーの……?え、持ち上げたら中身ばれる??
恐る恐る両手で抱え上げる。
「お嬢様!?」
ずしりと伝わる重み、柔らかい弾力、体温。……シリコンじゃない。本物だ。
その事実を脳が理解した瞬間、天を仰ぎ……再び意識が闇に落ちていった。
「アリエル!?アリエル!!」
遠ざかる呼び声を最後に、記憶の奥から自分の人生が鮮やかに蘇る。
……医者なんて、なるもんじゃない。
平々凡々な子供時代を終わらせようと、中学デビューを狙って惨敗。
外見磨きに必死になってダイエットした結果、骨と皮だけの鶏ガラ完成。
それでも勉強だけは、と食らいつき、日本最高峰の大学に合格。
医師免許を手にして研修医を経て、堂々と医師の仲間入り。
これだけのスペックなら……モテると思うだろ?全っ然!モテない!!
『俺より賢い女はちょっと』とか『将来開業して養って』とか。ふざけんな。
いや、こっちにも選ぶ権利あるからな!?
そもそも、私は誰かに寄りかかる人生を考えたことなんてなかった。
疲れて帰って、寝る前にマンガやラノベを読んでアニメ観てキュンとする。それで充分。
休みの日は数少ない友達と会って、また仕事漬けの毎日。
それでも……一人の人生も、悪くないと思っていた。
単身用のマンション買って、一生独身で気ままに仕事して……
そんな未来すら、悪くないと思ってた。
病院と自宅を往復し、三日三晩オペに立ち会い、食事は栄養補給食をエナドリで流し込む。
最後の日は、何本飲んだかすら覚えてない。
……そら死ぬわ。私が主治医ならめちゃくちゃ生活習慣の見直し提案するわ。
医者の不養生、ここに極まり過ぎだろ…
『医者になるもんじゃない』……そう言ったけど。
患者さんが元気になって、『ありがとう』と笑顔で退院していく姿。あれが嬉しくて、やりがいで。
救えない命もあったけれど、それでも、あの一言で生きていけた。
家族も、友人も、やりがいのある仕事もあったのに。
それでも……人生は、あっけなかった。
たった29年。短すぎる人生。
そうか。私は死んだのか。
西村涼子……享年29歳。



