青空にふる ー旧校舎西階段の魔法使いー

もしも願いが叶うなら――

愛してくれなくてもいい

その代わり――

俺以外の誰からも愛されないで

それも叶わないのなら――

誰一人、俺より君を愛さないで



一歩踏み出す度に鈍く軋む古い板張りの床。薄く重なった埃が舞い上がると鼻の奥がツンと痛む。

旧校舎は、名誉市民にもなった偉い建築家が建てたという、ただそれだけの理由で、使われなくなった今も尚、このだだっ広い学校の隅に陣取っている。

自分の居場所が半世紀にも渡って用意されているなんて、どれほど羨ましいことだろう。

新校舎の方が広いはずなのに、かつてはトロフィーが並んでいたはずの空っぽのショーケース、学年ごとにずらっと並んだ傘立て、誰もいない旧校舎は果てしなく続くように思えた。

むず痒い鼻を啜って、また一歩。誰に気付かれるわけでもないけれど、出来るだけ足音を立てないように静かに歩く。

旧校舎の西階段。一階の図書室、二階の美術室、三階の音楽室。そして施錠された屋上。時間割に入っていると嬉しいランキングの上位を飾る、特別教室だけを繋ぐ夢の階段。五十年前の階段にも、きっと同じ足音が上っていた。

屋上に向かう階段の手前で歩みは止まる。

木造の旧校舎に、後付けされた無機質な鉄製の扉。

そこだけ時間軸が違って見える。向こう側に異世界を湛えるかのような扉は、ドアノブに触れても、淡い光が射し込むどころか、パチンと静電気が跳ねるわけでもなく、ガチャガチャとつまらない音を立てるばかりだった。

ドアノブからそっと手を離し、両の指を組む。

ゆっくりと双眸を閉じると、幅広な二重がスッと目じりに向けて伸びる。

誰が言い出したかわからない。高校のOBか、OGか、もしかしたら現役生が面白半分にSNSに書いただけかもしれない。

旧校舎の西階段には魔法使いがいる。

立入禁止の屋上に続くドアの隙間から、願い事を書いた紙を投げ込むと、願いが叶う、という。

袖振り合うも多少の縁なら、この魔法使いとも出会うべくして出会ったのだろう。魔法使いと名乗るなら、坊主頭に袈裟懸けより、三角帽子にローブの方がそれっぽい。両手の平を合わせるよりも、アーメンのポーズの方が、何となく相手に寄り添っている感じがして、届くような気がした。

届かないと分かっていても、それでも祈らずにはいられなかった。

「もしも願いが叶うなら――」