隼人との結婚。
最初は、悪くなかった。
優しかった。
いつも気遣ってくれて、家事も手伝ってくれた。
仕事で疲れているはずなのに、私の話をちゃんと聞いてくれた。
休みの日は遊びに連れて行ってくれたし、一緒に旅行もした。
同年代では考えられないくらいの高収入。
安定した仕事。
——それなりに、幸せだった。
でも、それが「当たり前」になると、私はだんだん退屈に感じるようになっていた。
専業主婦。
子どもはいない。
毎日、決まった時間に起きて、掃除して、洗濯して、夕飯を作る。
人と出会うこと自体が、ほとんどなかった。
隼人は優しい。
でも、優しいだけ。
夜の時間も、次第に義務みたいになっていった。
触れられても、ときめかない。
隣にいるのに、心はどこか遠くにあった。
——このまま、一生こうなのかな。
そう思ったとき、私は、佐山晃に出会った。
宅配便の配達員だった。
車を持っていなかったから、重いものや大きいものは、全部ネットで注文していた。
だから、顔を合わせる機会が多かった。
筋肉質で、日に焼けていて、いかにも「外の世界の人」という感じだった。
私は昔から、強引で、引っ張っていってくれるタイプが好きだった。
隼人とは、正反対。
気づけば、ネットで買う必要もないものまで注文して、顔を合わせる回数を増やしていた。
会話も増えた。
世間話から、冗談まで。
そして、向こうから誘ってきた。
最初は、ランチ。
それから……ホテル。
久しぶりに「女として見られている」と実感した。
隼人との穏やかな時間とは違う、刺激的で、感情を揺さぶられる感覚。
私は、簡単にのめり込んだ。
半年ほどで、隼人にバレた。
でも、隼人は離婚したくないと言った。
「夜は帰ってくること」
「週に一回は食事を作ること」
「休みの日は一緒に過ごすこと」
その条件で、渋々、認めた。
正直、驚いた。
怒鳴ると思っていたし、責められると思っていた。
でも隼人は、泣きながら言った。
「それでも、一緒にいたい」
その姿を見て、少しだけ罪悪感はあった。
でも、関係は続けた。
ところが、晃は違った。
夫にバレたと知ると、
急に現実的なことを言い始めた。
慰謝料。
職場での立場。
世間体。
それから半年ほど経って、突然、連絡が取れなくなった。
配達にも来なくなった。
後任の人にそれとなく聞くと、本人から願い出て、別の地域に配置換えしたらしい。
——逃げた。
そう思った瞬間、一気に冷めた。
男らしくない。
結局、口だけだった。
私はすぐに吹っ切れた。
それからしばらくして、隼人は部長になり、年収が一千万円を超えた。
それを機に、私たちは郊外に一軒家を買った。
庭付きのマイホーム。
幸せが形になったみたいで、周りからは「理想の夫婦」だと言われた。
——でも、私はもう、あの頃の私じゃなかった。
それからの日々は、本当に退屈だった。
世間体もあるし、隼人は悪い人じゃなかったから、元に戻ったふりをした。
一緒に食事して、一緒に出かけて。
でも、あの時間だけは戻らなかった。
触れられても、何も感じない。
結婚前、母が言っていた。
「本当に自分のことを大切にしてくれる人と結婚するのが、一番幸せになれるのよ」
あのときの私は、その言葉が、やけに現実味のない綺麗事に聞こえていた。
——大切にされるだけじゃ、足りない。
そう思っていた私は、もう、隼人の優しさを“ありがたいもの”として見ることができなくなっていた。
最初は、悪くなかった。
優しかった。
いつも気遣ってくれて、家事も手伝ってくれた。
仕事で疲れているはずなのに、私の話をちゃんと聞いてくれた。
休みの日は遊びに連れて行ってくれたし、一緒に旅行もした。
同年代では考えられないくらいの高収入。
安定した仕事。
——それなりに、幸せだった。
でも、それが「当たり前」になると、私はだんだん退屈に感じるようになっていた。
専業主婦。
子どもはいない。
毎日、決まった時間に起きて、掃除して、洗濯して、夕飯を作る。
人と出会うこと自体が、ほとんどなかった。
隼人は優しい。
でも、優しいだけ。
夜の時間も、次第に義務みたいになっていった。
触れられても、ときめかない。
隣にいるのに、心はどこか遠くにあった。
——このまま、一生こうなのかな。
そう思ったとき、私は、佐山晃に出会った。
宅配便の配達員だった。
車を持っていなかったから、重いものや大きいものは、全部ネットで注文していた。
だから、顔を合わせる機会が多かった。
筋肉質で、日に焼けていて、いかにも「外の世界の人」という感じだった。
私は昔から、強引で、引っ張っていってくれるタイプが好きだった。
隼人とは、正反対。
気づけば、ネットで買う必要もないものまで注文して、顔を合わせる回数を増やしていた。
会話も増えた。
世間話から、冗談まで。
そして、向こうから誘ってきた。
最初は、ランチ。
それから……ホテル。
久しぶりに「女として見られている」と実感した。
隼人との穏やかな時間とは違う、刺激的で、感情を揺さぶられる感覚。
私は、簡単にのめり込んだ。
半年ほどで、隼人にバレた。
でも、隼人は離婚したくないと言った。
「夜は帰ってくること」
「週に一回は食事を作ること」
「休みの日は一緒に過ごすこと」
その条件で、渋々、認めた。
正直、驚いた。
怒鳴ると思っていたし、責められると思っていた。
でも隼人は、泣きながら言った。
「それでも、一緒にいたい」
その姿を見て、少しだけ罪悪感はあった。
でも、関係は続けた。
ところが、晃は違った。
夫にバレたと知ると、
急に現実的なことを言い始めた。
慰謝料。
職場での立場。
世間体。
それから半年ほど経って、突然、連絡が取れなくなった。
配達にも来なくなった。
後任の人にそれとなく聞くと、本人から願い出て、別の地域に配置換えしたらしい。
——逃げた。
そう思った瞬間、一気に冷めた。
男らしくない。
結局、口だけだった。
私はすぐに吹っ切れた。
それからしばらくして、隼人は部長になり、年収が一千万円を超えた。
それを機に、私たちは郊外に一軒家を買った。
庭付きのマイホーム。
幸せが形になったみたいで、周りからは「理想の夫婦」だと言われた。
——でも、私はもう、あの頃の私じゃなかった。
それからの日々は、本当に退屈だった。
世間体もあるし、隼人は悪い人じゃなかったから、元に戻ったふりをした。
一緒に食事して、一緒に出かけて。
でも、あの時間だけは戻らなかった。
触れられても、何も感じない。
結婚前、母が言っていた。
「本当に自分のことを大切にしてくれる人と結婚するのが、一番幸せになれるのよ」
あのときの私は、その言葉が、やけに現実味のない綺麗事に聞こえていた。
——大切にされるだけじゃ、足りない。
そう思っていた私は、もう、隼人の優しさを“ありがたいもの”として見ることができなくなっていた。



