悪魔の証明

ニュースは、思ったより静かに届いた。

テレビでも、ネットでもなく、田所からの一本の電話だった。

『終わったぞ』

それだけで、優斗は理解した。

「……捕まりましたか」

『滝川零士と、片桐亜美』
『両方だ』

優斗は、しばらく何も言えなかった。

『片桐は、最初から素直だった』
『金を受け取ったことも、虚言も、全部認めた』

「……良心の呵責、ですか」

『ああ。最初は軽い気持ちだったらしい』
『まさか本当に殺すとは思ってなかった、と』

電話の向こうで、田所が一度、息を吐く。

『零士の方は、最初は否認してた』
『だが、ロープから皮膚片が出た』
『それと、片桐の自供を突きつけたら……』

「……観念した」

『ああ』

田所は淡々と続けた。

『最初から、美玲さんの気持ちは計算だった』
『大学時代から好意を持ってるのは知ってた』
『それを利用して、離婚に追い込み』
『そのまま財産を奪うつもりだった』

優斗の胸の奥が、冷たくなった。

『片桐はただの道具だ』
『虚言役と、アリバイ役』
『金を払えば、やると思ってた』

「……兄は」

『最初から、何も知らなかった』
『ただ、邪魔だっただけだ』

電話が切れたあと、優斗はしばらく、その場に立ち尽くしていた。

怒りも、安堵も、どちらも、まだ形にならなかった。

翌日、優斗は警察署にいた。

刑事から聞かされた内容は、田所の話とほぼ同じだった。

零士は、自分の計画を「合理的だった」と言ったらしい。

美玲の好意。
隼人の財産。
片桐という駒。

「全部、条件が揃ってた」
そう言って、笑ったと。

優斗は、その話を聞きながら、妙に現実味がなかった。
あまりにも、冷静で、あまりにも、身勝手で。
兄の人生は、誰かの“計画の材料”でしかなかったのだ。

警察署を出た足で、優斗はそのまま美玲の家へ向かった。

インターホンを押すと、少し間を置いて、ドアが開いた。

「……優斗くん?」

「話があります」

それだけ言って、家に上がった。

リビングは、相変わらず整っていた。
でも、どこか空気が重い。

優斗は、ゆっくり話し始めた。

片桐の自供。
零士の計画。
遺産目当てだったこと。
最初から、全部が嘘だったこと。

美玲は、最初は黙って聞いていた。

やがて、手が震え始めた。

「……私、利用されてただけ?」

「……そうです」

その瞬間だった。

美玲の膝から、力が抜けた。

「……うそ……」

ソファに崩れ落ちて、両手で顔を覆う。

「私……何も……」

声にならない嗚咽。

「……私の人生……」

優斗は、何も言えなかった。

責める言葉も、慰める言葉も、もう、どちらも意味を持たなかった。

そこにいたのは、兄を失った弟と、兄を追い詰め、そして利用された女。

二人とも、もう、取り返しのつかない場所に立っていた。

ただ一つ確かなのは、隼人の死は、ようやく「真実」として、この部屋に辿り着いたということだけだった。