死ぬまでに叶えたい十の願い――名ばかりの正妃、最後の一年

十一月に入ると、麗華の体に変化が現れ始めた。

朝、起き上がるのに時間がかかるようになった。
昼過ぎになると疲れが出て、横になることが増えた。
胸の痛みは波があり、良い日は何でもなく、悪い日は息をするのも辛かった。

それでも、麗華は周囲に辛さを見せないように努めた。
侍女には気づかれていたが、彼女は主人の意を汲んで何も言わなかった。
延徳帝に至っては、毎日執務に忙しく、麗華とすれ違うことも少なくなった。

ある穏やかな昼下がり、延徳帝が麗華の部屋を訪ねてきた。

野遊(やゆう)の用意ができた」

麗華は寝台から起き上がろうとして、少しよろけた瞬間、延徳帝が一歩踏み出して、何か言おうとしたが、麗華はもう立ち上がっていた。

「ありがとうございます。今日ですか?」
「天気が良い。今日を逃すと次はいつになるかわからない」
「そうですね。少し着替えを」

着替えを終えると、二人は王宮の裏庭から森へと続く小道に出た。
側近である徳偉が遠目に控えているほかは、護衛も最小限。

小道を歩いて十五分ほどで、視界が開けると、緩やかな丘の上、枯れ始めた野草の中に、毛氈(もうせん)が広げられている。
傍らには木製の籠があり、中に食べ物が詰まっているのが見えた。

「まあ、きれい……」

麗華は思わず、声を上げる。
空は高く、青かった。
秋の日差しは柔らかく、枯れ草の間から顔を出す野の花が、風に揺れ、王宮の整えられた庭園とは違う、生きている野の美しさがそこにあった。

毛氈に腰を下ろすと、麗華はすうっと息を吸う。
草の匂い、土の匂い、風の匂い。

「こんなところが王宮の近くにあるとは知りませんでした」
「徳偉が探してきた。あいつは何故かこういうことに詳しい」
「優秀な側近様ですね」

延徳帝は籠から食べ物を取り出す。
籠の中には、薄く切った燻し肉、温めた餅餠(もち)、季節の果実、それから酒と温かな茶が用意されていた。
麗華は餅餠を一口食べ、燻し肉を添えて、思わず目を細めた。

「美味しい」
「宮廷の料理人が作った」
「それでもこうして外で食べると、一段と美味しく感じます。なぜでしょう」
「さあ」

短い答えの後、しばらく沈黙が続いた。風がゆっくりと吹き、二人の間を通り抜ける。
麗華は寝転んで、空を見上げた。

「陛下も、横になってみてはいかがですか」
「……」
「空が広いです。一人で見るより、二人で見た方が得した気分になりますよ」

延徳帝は少し間を置いて、毛氈の上に背中をつけた。

「こうしていると、故郷を思い出します」

秋の空が、頭上に広がっていた。
薄く白い雲がゆっくりと流れ、その向こうに青が深まっていた。

「陛下は星がお好きですか」

と唐突に麗華が訊く。

「星?」
「三番目の願いが、星空を見ることなので。陛下はお好きかと思って」
「特別好きというわけではないが、嫌いでもない」
「私は好きです。故郷は辺境ですから、夜になると街の灯りが少なくて、星がとてもよく見えました。天の川が川のように流れていて……宮廷に来てからは、あんな星空は見ていません」
「宮廷でも星は見える」
「はい。でも帝都は明るいですから、辺境の星とは少し違って。いつかまた、あのくらい濃い星空を見てみたいと思っていました」

延徳帝は黙っていた。

「辺境は寒かったか」
「冬はとても寒かったです。でも、好きでした。雪が降ると世界が静かになって。馬に乗って雪野原を駆けると、信じられないほど清々しい気持ちになりました」
「そうか」
「陛下は辺境に行かれたことはありますか?」
「一度だけ。視察で、十二歳の頃」
「それでは随分前ですね。お子さまだったのでは」
「覚えている。冬の景色が……珍しかった」

それがこの会話の中で最も長い文章だったかもしれない。
麗華はそれがなぜか嬉しかった。
日が少し傾き始めると、延徳帝が「そろそろ戻る」と言った。

麗華は起き上がり、立ち上がろうとしたが、体が言うことを聞かず、膝に力が入らずよろめくと、延徳帝の手が伸びてきて、麗華の腕を掴み支えた。

麗華は驚いて、その手を見た。
それから延徳帝の顔を見た。
彼はまっすぐ前を見て、顔を逸らしていた。

「……ありがとうございます」
「歩けるか」
「はい、大丈夫です。すみません、足がしびれてしまって」

延徳帝はゆっくりと手を離し、二人は並んで小道を歩き始める。
麗華の歩調に合わせて、延徳帝がわずかに足を緩めているのを、麗華は気づいていた。

だが何も言わなかった。
ただそれを、胸の奥に丁寧にしまっておくだけ。

二つ目。叶った。