死ぬまでに叶えたい十の願い――名ばかりの正妃、最後の一年

赤い野花を束にして差し出され、麗華は思わず足を止めた。

「きれいな花ね。これは何という花?」
忘憂花(ぼうゆうか)だよ。秋にしか咲かない、めずらしい花なの。昔から、悲しみを忘れさせて、幸福を呼ぶって言われてるの」
「まあ」

麗華は少女の手の中の花を見ると、深い赤に白い縁取りが入った小さな花。

「いくらかしら?」

値段を聞いて、麗華はハッとした。
宮廷に入ってから、自分で何かを買ったことがなかった。
お金を持っていない。

「……あの、陛下」

声をかけようとしたとき、既に延徳帝が金子を出して少女に渡していた。
少女は嬉しそうに礼を言い、走り去るのを見送ると、麗華は延徳帝を見た。

「ありがとうございます」
「どうせ私が承認した外出費から出る」

素っ気ない言葉。
しかし麗華は花を受け取って胸に抱き、それをありがたいと思った。

しばらく歩いていると、広場に人だかりができていた。
近づくと、大道芸人が演じていた。
色のついた布を宙に投げ、空中で結び目を作る。
見事な手さばきに、集まった人々が歓声を上げた。

「すごい!どうやっているのかしら」
「手品だ」
「でも本当に一瞬で……」

手を叩いて笑う麗華の隣に立って、延徳帝は演技を見ていた。
彼が見ているのが芸人なのか、麗華なのか、わからなかった。

昼になると、二人は街の素朴な内装の食堂に入ると、並べられた木の椅子に座った。

「今日の(あつもの)南瓜(かぼちゃ)だよ、お兄さんもお姉さんも寒いだろう、温まっていって」

南瓜の羹が来ると、麗華はひと口飲んで、目を閉じる。

「……美味しい」
「そうか」
「本当に美味しいです」
「確かに悪くない」
「宮廷の料理も美味しいのですが、なんといいますか……こういう、素直な温かさが」

それが二人の間で交わされた、食事中の会話のほぼ全て。
しかし、それでよかった。
麗華には、この沈黙が今日だけは重くない。
隣に人がいて、同じものを食べているというだけで、何かが満たされていく気がした。

帰り際、麗華はさっき買った花をじっと見る。

「一つお訊きしてもよろしいですか」
「何だ」
「陛下は、お好きなものはありますか。食べ物でも、場所でも、なんでも」

延徳帝は少し間を置き答える。

「……馬だ。乗ることが好きだ」
「私も好きです。辺境育ちですから、子どもの頃から馬に慣れ親しんでいました。それで願いに入れたのです」
「願いは馬で駆けることだったか」
「はい。いつか一緒に駆けていただけたら」

延徳帝は短くうなずくと、それきり口を閉じたが、麗華にはその沈黙が以前より少し柔らかくなった気がした。
それとも気のせいだったかもしれない。
宮廷へ戻る馬車の中で、麗華は窓から街を見送りながら、胸の中に温かいものが灯るのを感じた。

一つ目。叶った。