死ぬまでに叶えたい十の願い――名ばかりの正妃、最後の一年

沈黙が落ちた。
延徳帝の表情が、わずかに揺れた。
それは驚きだったのか、否定だったのか、麗華には読み取れなかった。

「それは……確かなのか」
「呪術師がそのようにおっしゃいました。証拠も残っているとのことです」

また沈黙。延徳帝はしばらく何かを考えるように立っていた。そして言った。

「処罰については検討する。お前は療養に専念しろ」

それだけ言って、彼は部屋を出ていこうとした。

「陛下」

麗華の声に、延徳帝は足を止めた。

「お願いがあります。離縁していただけませんか」

延徳帝の目が細くなった。

「余命一年とのことです」

と麗華は続けた。
声は穏やかだった。三年間穏やかで居続けたように、今もそれを保っていた。

「正妃が皇室に縛られたまま死ぬのは、様々な意味で不都合かと思います。私を自由にしていただければ、故郷の家に戻り、静かに余生を過ごすことができます。ご迷惑はおかけしません」

延徳帝はしばらく彼女を見つめていた。

「断る」
「……なぜ、でしょうか」

麗華は目を瞬かせた。

「お前は正妃だ。沈家との関係のためにも、その立場を捨てることは許可しない」
「しかし――」
「断ると言った」

きっぱりとした言葉だった。
麗華は少し考え、そして口を開いた。

「では、一つ交換条件を申し上げてもよろしいでしょうか」

延徳帝は黙って続きを促した。

「死ぬまでに、私の願いを十個、叶えてください」
「十個」
「はい。大きなことはお願いしません。ささやかなことばかりです。それを叶えていただけるなら、正妃として最後まで務めを全うすることをお約束します」

延徳帝は長い間、麗華を見つめていた。
彼女はその視線を真っ直ぐ受け止めた。
逃げも隠れもしない、ただ静かな目で。

「……内容による」
「まず一つ目をお聞きいただけますか」

延徳帝の眉が少し上がった。

「街に、一緒に出かけていただきたいのです」
「街に」
「はい。正妃として宮廷に入ってから三年が経ちますが、まだ帝都の街を歩いたことがないのです。この国の人々の暮らしを、自分の目で見てみたいと思っていました」

また沈黙が続いた。麗華は静かに待った。

「……わかった」

それが、全ての始まりだった。