死ぬまでに叶えたい十の願い――名ばかりの正妃、最後の一年

その夜、麗華は頭痛を感じて早めに就寝した。
翌朝目覚めると、胸の中心に鈍い痛みがあった。
初めは疲れからくるものだと思っていた。
しかし数日経っても痛みは消えず、むしろ少しずつ形を変えて、深いところに根を張っていくような感覚があった。

宮廷の医師が呼ばれた。
麗華の胸に手をかざした医師は、みるみる顔色を変えた。
二人目の医師、三人目の魔術師が呼ばれ、最後には帝国で最も優れた老呪術師が呼ばれた。

長い白髪に深い皺を刻んだ老人で、その眼は長い年月を見てきた者だけが持つ静謐(せいひつ)さを湛えていた。
彼は長い時間をかけて麗華を診察し、最後に深いため息をついた。

「呪いでございます」

その言葉は、石を水に落とすように、部屋に静寂の波紋を広げた。
呪術師は言いにくそうに続けた。

「強力な呪詛が、正妃の魂に刻まれております。これは……死の呪いでございます。余命は、一年」

麗華は静かにその言葉を受け取った。

一年。
それが彼女に残された時間だった。

「恐らく何かを媒介としております。何か受け取ったなど、お心当たりはありませんか?」

――麗華は、数日前の茶会を思い出した。

雪蘭様から手渡された、深紅の花。
出席の御礼の言葉と共に差し出されたそれは、美しく、香りさえ甘やかだった。

その時、雪蘭様はにこやかに微笑んでいたが、花を持つ指先が、ほんのわずかに震えていたのが気になった。

知らせはすぐに延徳帝に伝えられた。
彼が医務室に来たのは、報告を受けてから一時間後のことだった。
麗華は寝台に起き上がり、窓から秋の庭園を眺めていた。

扉が開く音がして、麗華は振り返った。
延徳帝が立っていた。

三年間共に暮らしながら、これほど近くで彼の顔を見たことがあっただろうか。
高い頬骨、引き結ばれた薄い唇、険しいとも真剣ともとれる眼差し。
いつもどこか遠くを見ているような目が、今だけは確かに麗華を見ていた。

「呪いの出所は判明しているのか」

その言葉が延徳帝の最初の言葉だった。
体の具合は、という問いも、辛くはないかという言葉も、なかった。
麗華はそれを責める気にはなれなかった。

それがこの三年間というものだったから。

「はい。呪術師が調べたところ、先日の茶会の折に、呪いの込められた花を渡されたとのことでした」
「誰が」

麗華は少し間を置いた。それから静かに言った。

「雪蘭様、です」