「外へ出る許可は出していないはずだ」
「……申し訳、ありません」
不満そうに顔を顰めながら青年は頭を下げる。大輝は少しだけ振り返ってその人物を確認する。オールバックでかっちり髪をまとめ、不快げに眉間に皺を寄せている男。黒に近い濃紺の羽織を纏い、深い藍色の着物を着ている。その男の佇まいは、この土地の歴史そのものを背負っているようだった。
切れ長な瞳がギロリと音を立てるように青年を睨みつける。
「もういい。さっさと去れ」
男の命令に青年はきつく唇を引き結ぶと、チラッと大輝の顔を伺った後走って去っていった。大輝は無意識に青年の背に手を伸ばす。せっかく会えたのに、また離れ離れになってしまったことを残念に思えた。
「愚息が申し訳ない。何か粗相をしなかったか?」
「……いえ、特には。それよりも、あの子の名前を教えてもらってもいいですか」
「あれに名前はない。何もできず、役目を果たすこともできない出来損ないに過ぎない」
「自分の子供なんですよね。そんな言い方はないんじゃないんですか」
酷い言いように大輝の心の底がチリっと痛む。青年のことを何か知っているわけではなかったが、少なくともこんな風に評価されていいような人ではないはずだ。
生意気にも睨む大輝に男は忌々しそうに顔を歪めると込み上げる感情を抑え込むように深いため息を吐く。その様子は子供に何を言っても無駄だと諦めているようだった。
「…………あれは、神道朔。神道家の恥晒しだ。それ以上でもそれ以下でもない」
たっぷり時間をかけた後、男は重たい口を開くと光の届かない部屋の奥から縁側に立つ大輝の方へ歩いてくる。足音一つ立てずに近づいてくるその人に大輝は人間らしい温度を感じられず、思わず両腕をさする。目の前に男が来ると大輝でも見上げるほど背が高かった。
ジロッと見下ろすその瞳はあの青年と同じ金色の瞳をしていた。
「私は、神道宗一郎。この常世原一帯を統括している」
「……俺は須藤大輝、です」
「あれのことが気になっているようだが、あれには関わらないでいただきたい。出来損ないでも、果たしてもらわねばいけない役目があるのだから」
「嫌だと言ったらどうするんですか」
赤の他人に行動を制限されるのは不快でしかなかった。この男の人を物のように扱う態度も気に食わず、大輝はつい喧嘩腰で宗一郎のことを睨みつける。宗一郎は値踏みするように大輝の爪先から頭の先まで観察すると、感情を削ぎ落としたような目を向ける。底の見えない穴を見ているように、宗一郎の瞳は黒く光りを宿していなかった。
「はっ、逃げ出したお前に何ができる……背負う覚悟がないものに、私たちの宿命が変えられるわけないだろう」
身に覚えのないことを責め立てるような口調に大輝は眉を顰める。そのわずかな変化すら気に障ったのか、宗一郎は踵を返すと大輝のことを視界から消すように背を向ける。
「お前も所詮、この宿命から逃れられはしない――だから、ここに戻って来たのだろう?」
宗一郎は言葉を区切る。一瞬の静寂がその場を支配する。
「これは、そういう呪いなのだから」
どういう意味かと問いただそうとしたが、宗一郎は足早に部屋の奥へと移動するとそのまま部屋を出て行ってしまった。
「……申し訳、ありません」
不満そうに顔を顰めながら青年は頭を下げる。大輝は少しだけ振り返ってその人物を確認する。オールバックでかっちり髪をまとめ、不快げに眉間に皺を寄せている男。黒に近い濃紺の羽織を纏い、深い藍色の着物を着ている。その男の佇まいは、この土地の歴史そのものを背負っているようだった。
切れ長な瞳がギロリと音を立てるように青年を睨みつける。
「もういい。さっさと去れ」
男の命令に青年はきつく唇を引き結ぶと、チラッと大輝の顔を伺った後走って去っていった。大輝は無意識に青年の背に手を伸ばす。せっかく会えたのに、また離れ離れになってしまったことを残念に思えた。
「愚息が申し訳ない。何か粗相をしなかったか?」
「……いえ、特には。それよりも、あの子の名前を教えてもらってもいいですか」
「あれに名前はない。何もできず、役目を果たすこともできない出来損ないに過ぎない」
「自分の子供なんですよね。そんな言い方はないんじゃないんですか」
酷い言いように大輝の心の底がチリっと痛む。青年のことを何か知っているわけではなかったが、少なくともこんな風に評価されていいような人ではないはずだ。
生意気にも睨む大輝に男は忌々しそうに顔を歪めると込み上げる感情を抑え込むように深いため息を吐く。その様子は子供に何を言っても無駄だと諦めているようだった。
「…………あれは、神道朔。神道家の恥晒しだ。それ以上でもそれ以下でもない」
たっぷり時間をかけた後、男は重たい口を開くと光の届かない部屋の奥から縁側に立つ大輝の方へ歩いてくる。足音一つ立てずに近づいてくるその人に大輝は人間らしい温度を感じられず、思わず両腕をさする。目の前に男が来ると大輝でも見上げるほど背が高かった。
ジロッと見下ろすその瞳はあの青年と同じ金色の瞳をしていた。
「私は、神道宗一郎。この常世原一帯を統括している」
「……俺は須藤大輝、です」
「あれのことが気になっているようだが、あれには関わらないでいただきたい。出来損ないでも、果たしてもらわねばいけない役目があるのだから」
「嫌だと言ったらどうするんですか」
赤の他人に行動を制限されるのは不快でしかなかった。この男の人を物のように扱う態度も気に食わず、大輝はつい喧嘩腰で宗一郎のことを睨みつける。宗一郎は値踏みするように大輝の爪先から頭の先まで観察すると、感情を削ぎ落としたような目を向ける。底の見えない穴を見ているように、宗一郎の瞳は黒く光りを宿していなかった。
「はっ、逃げ出したお前に何ができる……背負う覚悟がないものに、私たちの宿命が変えられるわけないだろう」
身に覚えのないことを責め立てるような口調に大輝は眉を顰める。そのわずかな変化すら気に障ったのか、宗一郎は踵を返すと大輝のことを視界から消すように背を向ける。
「お前も所詮、この宿命から逃れられはしない――だから、ここに戻って来たのだろう?」
宗一郎は言葉を区切る。一瞬の静寂がその場を支配する。
「これは、そういう呪いなのだから」
どういう意味かと問いただそうとしたが、宗一郎は足早に部屋の奥へと移動するとそのまま部屋を出て行ってしまった。



