「何をおかしなことを言っている。八ツ森様は忌み神に過ぎない。本当に救える方法があるのなら、なぜ今もあの神はここにいる」
大輝の必死の訴えが届いたのは宗一郎ではなく朔の方だった。朔はポケットにしまった小さな桐箱に触れる。朔もこれが何かのきっかけになればと思っていた。
ポケットから取り出した小さな箱。そこには母体と子を繋ぐ臍の緒が収められている。
「それは……?」
怪訝そうに眉を顰める宗一郎の意識が朔の手に収まる箱へと向く。その瞬間を大輝は見逃さず、少しだけ緩んだ手の隙間に自分の手をねじ込み、勢いよく引き剥がした。宗一郎が再び大輝の方を向いた時、彼はすでに宗一郎の手の届かないところで座り込んでいた。
急に開いた気道から空気がたくさん入り込み、大輝は思わずその場に咽込む。その様子に朔がハッとしたように慌てて大輝に駆け寄り、背中をさする。反対の手の中には、干からびた臍の緒が鈍く光っているようだった。
「それは、一体なんだ……?」
臍の緒を見ても何も思わないのは、宗一郎が八ツ森様の声を、想いを感じ取ったことがないからだろう。
八ツ森様の本質は幼い子供と同じだった。
誰かと遊びたい。
誰かと一緒にいたい。
誰かに愛されたい。
そして、おそらくその全てが、幼い子供が母親の愛情を求めるものからきている。
そう考えると、八ツ森様が本当に探しているのは、生贄じゃない。
「……ケホッ。……八ツ森様は、母を探しているんだ」
朔に支えられながら、大輝は動き出した頭の中で導き出した答えを口にする。きっとこれは、大輝の勘違いなんかじゃない。その考えを後押しするように、朔の手に力が入る。
「大輝の言う通りだ。……八ツ森様は生贄だった子供の集合体。きっとそばにいて、愛情をくれる人を探している」
「それがなんだと言うのだ。第一、母というのなら私の妻の命も奪っているのだぞ! なら、どうして八ツ森様は今もなお生贄を欲している?!」
宗一郎の疑問はもっともだった。母というのが女性を指すのであれば、朔の母親が八ツ森様の犠牲になった時に、その怨念が消えていなければいけない。
だが、実際には八ツ森様は常世原集落を徘徊し、次の生贄を探している。
なら、八ツ森様が探し、欲しているものは――母とは一体?
その時、朔が持っていた臍の緒が大輝の目に入る。臍の緒こそが最後のピースだったように、大輝に衝撃が走った。あっ――と思った時、朔を見れば、彼も同じ答えに至っていたようで小さく頷き返す。
大輝は震える手で小さな箱に手を伸ばす。ざらついた木の質感の奥に人肌を感じるようだった。そして、今もなお、その臍の緒は二人の手の中でたしかに息づいている。
「八ツ森様が探していたのは――自分の母親だ」
「僕もそうだと思う。きっと、この臍の緒は、一番最初の犠牲者の子供のものだ」
これがどうして清子の家にあったのかはわからない。清子がこの集落のことを調べる過程でたまたまこれを見つけたのかもしれないが、今はその理由がなんであるかは関係なかった。
ただ、この臍の緒が、大輝たちを救う鍵になっていることだけはたしかだった。
「八ツ森様にこれを返せば……もしかしたら……!」
大輝の瞳が希望に満ち溢れたように輝きを取り戻す。その希望を朔も感じたのか、彼も少しだけ頬を緩めて頷き返した。宗一郎だけは、ありえないというように眉間に皺を寄せている。
二人の手の中にある箱に希望がある。
それを感じた大輝は、次の行動に移るために立ちあがろうとした――が、首筋に燃えるような痛みが走ったかと思うと、意識が朦朧としてその場に崩れ落ちた。
「大輝!?」
朔の悲鳴が遠くの方で聞こえた。返事をして安心させたいのに、体は指一本ですら動かせない。全身が麻痺したように痺れる。唯一動かせた瞳だけ、部屋の入り口の方へと向ける。
ニタリと薄気味悪く笑った、お婆さんがそこに立っていた。
大輝は内心で舌打ちをしながら、ゆっくりと意識を手放していった。
大輝の必死の訴えが届いたのは宗一郎ではなく朔の方だった。朔はポケットにしまった小さな桐箱に触れる。朔もこれが何かのきっかけになればと思っていた。
ポケットから取り出した小さな箱。そこには母体と子を繋ぐ臍の緒が収められている。
「それは……?」
怪訝そうに眉を顰める宗一郎の意識が朔の手に収まる箱へと向く。その瞬間を大輝は見逃さず、少しだけ緩んだ手の隙間に自分の手をねじ込み、勢いよく引き剥がした。宗一郎が再び大輝の方を向いた時、彼はすでに宗一郎の手の届かないところで座り込んでいた。
急に開いた気道から空気がたくさん入り込み、大輝は思わずその場に咽込む。その様子に朔がハッとしたように慌てて大輝に駆け寄り、背中をさする。反対の手の中には、干からびた臍の緒が鈍く光っているようだった。
「それは、一体なんだ……?」
臍の緒を見ても何も思わないのは、宗一郎が八ツ森様の声を、想いを感じ取ったことがないからだろう。
八ツ森様の本質は幼い子供と同じだった。
誰かと遊びたい。
誰かと一緒にいたい。
誰かに愛されたい。
そして、おそらくその全てが、幼い子供が母親の愛情を求めるものからきている。
そう考えると、八ツ森様が本当に探しているのは、生贄じゃない。
「……ケホッ。……八ツ森様は、母を探しているんだ」
朔に支えられながら、大輝は動き出した頭の中で導き出した答えを口にする。きっとこれは、大輝の勘違いなんかじゃない。その考えを後押しするように、朔の手に力が入る。
「大輝の言う通りだ。……八ツ森様は生贄だった子供の集合体。きっとそばにいて、愛情をくれる人を探している」
「それがなんだと言うのだ。第一、母というのなら私の妻の命も奪っているのだぞ! なら、どうして八ツ森様は今もなお生贄を欲している?!」
宗一郎の疑問はもっともだった。母というのが女性を指すのであれば、朔の母親が八ツ森様の犠牲になった時に、その怨念が消えていなければいけない。
だが、実際には八ツ森様は常世原集落を徘徊し、次の生贄を探している。
なら、八ツ森様が探し、欲しているものは――母とは一体?
その時、朔が持っていた臍の緒が大輝の目に入る。臍の緒こそが最後のピースだったように、大輝に衝撃が走った。あっ――と思った時、朔を見れば、彼も同じ答えに至っていたようで小さく頷き返す。
大輝は震える手で小さな箱に手を伸ばす。ざらついた木の質感の奥に人肌を感じるようだった。そして、今もなお、その臍の緒は二人の手の中でたしかに息づいている。
「八ツ森様が探していたのは――自分の母親だ」
「僕もそうだと思う。きっと、この臍の緒は、一番最初の犠牲者の子供のものだ」
これがどうして清子の家にあったのかはわからない。清子がこの集落のことを調べる過程でたまたまこれを見つけたのかもしれないが、今はその理由がなんであるかは関係なかった。
ただ、この臍の緒が、大輝たちを救う鍵になっていることだけはたしかだった。
「八ツ森様にこれを返せば……もしかしたら……!」
大輝の瞳が希望に満ち溢れたように輝きを取り戻す。その希望を朔も感じたのか、彼も少しだけ頬を緩めて頷き返した。宗一郎だけは、ありえないというように眉間に皺を寄せている。
二人の手の中にある箱に希望がある。
それを感じた大輝は、次の行動に移るために立ちあがろうとした――が、首筋に燃えるような痛みが走ったかと思うと、意識が朦朧としてその場に崩れ落ちた。
「大輝!?」
朔の悲鳴が遠くの方で聞こえた。返事をして安心させたいのに、体は指一本ですら動かせない。全身が麻痺したように痺れる。唯一動かせた瞳だけ、部屋の入り口の方へと向ける。
ニタリと薄気味悪く笑った、お婆さんがそこに立っていた。
大輝は内心で舌打ちをしながら、ゆっくりと意識を手放していった。



