朔に従って歩き、辿り着いたのは小さな部屋だった。その部屋は物置になっているようで、色々な家具や本などが所狭く置かれている。
おばあちゃんが寝たきりになってから誰も入っていなからか、畳の上には埃が溜まり、締め切られた部屋の中は空気が澱んでいた。おばあちゃんの身の回りの世話のために通っている幸代もこの部屋には入ったことがないのか、物珍しそうに辺りを見渡している。
そんななか、朔だけはわかっているように部屋の中へと遠慮することなく入っていく。
歩いたところから埃が舞う。部屋の一番奥まで進むと、山積みになった本から一冊の本を取り出す。そして、中身を確認するように読むと大輝たちの方へと振り返る。
「ここには清子さんが調べた八ツ森様の全てがある」
そっと本の上を撫でると朔は一呼吸置く。
「清子さんはおそらく、八ツ森様の呪いの解き方の答えにたどり着いたんだ。だから、逆に八ツ森様に目をつけられてしまった」
「なら、おばあちゃんが見つけたものを俺たちで見つけよう」
部屋の中へと踏み出し、大輝は朔のそばによる。本を持っていない方の手を握ると、ひやりとした冷たさが伝わってくる。朔は驚いたように瞬きを繰り返したあと、その手を握り返した。
「そうと決まれば、手分けして探そうじゃない」
やる気に満ちた幸代の声が二人の耳に届く。二人は顔を見合わせて幸代の言葉に小さく頷いた。
そこからは分担して部屋の中を探した。古びた木製の棚を幸代が、山積みになった本を大輝が、そして押し入れの中身を朔が調べることになった。
大輝は手始めに一番上にあった本を手に取ると、中身を確認する。その本はこの土地の歴史が書かれているようだった。
『常世原集落はXXX年前に各地から逃げてきた信徒が集まってできた集落である』
その一文から始まる常世原集落の歴史は興味深い内容だった。信仰心の厚かった人々は、各地で弾圧されこの土地に流れ着いた。元々神を信仰していた人たちが集まってできた集落だからこそ、異様なまでに八ツ森様を信じていることが伺えた。
次に手に取った本は八ツ森様についてまとめてあった。手本のような美しい字で、手紙の字を彷彿とさせた。
『八ツ森様は神ではない。八ツ森様は、私たちの異常なまでの信仰により生み出された、忌み神のようなものなのだ』
その文章のすぐそばには、美しい字とはかけ離れた落書きのような、走り書きがあった。
『八ツ森様の声に応えてはならない。応えたら最後、八ツ森様は過去も未来も、全てを飲み込んでしまう』
「過去も、未来も……?」
本に書かれていることはどれも抽象的て、はっきりとしたことは書かれていない。おばあちゃんがここから何を導き出したのか、この土地や八ツ森様に詳しくない大輝では予想を立てることも難しかった。
大輝は手に持っていた本を閉じると、不意に目に入った本に手を伸ばす。それは、この集落で行われた祭事の記録だった。
『20XX年八月某日。神様への生贄を決める儀式が村で行われた』
そんな一文から始まる内容に、なぜか大輝は引っ掛かりを覚える。鼓動が早くなり、焦る気持ちを抑えながら、一行ずつ丁寧に読み進めていく。
『予定していた、神様との邂逅は滞りなく行われた。人々の祈りに呼応するように、神様は二人の男児らの前に姿を現した』
文章を読みながら、その光景が頭に思い浮かんでくる。
蝋燭が揺れる。白木で組まれた舞台に、二人の子供と大きな影が一つ。一人は怯えるように体を縮こまらせ、震える手でもう一人の子供の裾を掴んでいる。もう一人の子供はその手を小さな手で包み込みながら、勇敢にも大きな影に向かって立ち上がっていた。
『無謀にも、男児の一人が立ち上がり、神様に声をかける』
――八ツ森様の声に応えてはならない。
その掟すら厭わないように。無謀に、そして勇敢に。
『生贄は選ばれた。その生贄の名前は…………』
その先の頁は丁寧に破り取られていた。だが、大輝にはわかるような気がした。
そこに、誰の名前が書かれていたのか。
あの夏、生贄に選ばれたのが誰なのか。
「やっぱり、俺は小さい時、ここで暮らしていたんだ。それで、八ツ森様の贄に選ばれて…………」
そっと、自分の首元に触れると大輝の言葉を肯定するようにチリッとした痛みが走る。
――あそボウ。
無邪気な声がはっきりと聞こえてくる。あの日と同じ声だ。
懐かしく、離れがたいあれらの声は、ずっと贄に選ばれた大輝に向かって話しかけていたことにようやく気がついた。
生贄として選ばれたからこそ、彼らの声が聞こえ、無意識のうちにこの土地に惹かれていたのだ。
気持ち悪く揺れる視界に耐えるように目を閉じる。ゆらゆらと揺れる蝋燭が瞼の裏にこびりついているようだった。
耳元でうるさいほど騒ぐ心臓の音を無視するように、次の本に手を伸ばす。
「また、八ツ森様の記録……?」
先ほどのような手本みたいな字とは打って変わり、全体的に急いで書いたように乱雑な字になっていた。まるで、何かから逃げながら書いたようにも見えた。そして、紙の端には乾いた茶色の染みが残っていた。
おばあちゃんが寝たきりになってから誰も入っていなからか、畳の上には埃が溜まり、締め切られた部屋の中は空気が澱んでいた。おばあちゃんの身の回りの世話のために通っている幸代もこの部屋には入ったことがないのか、物珍しそうに辺りを見渡している。
そんななか、朔だけはわかっているように部屋の中へと遠慮することなく入っていく。
歩いたところから埃が舞う。部屋の一番奥まで進むと、山積みになった本から一冊の本を取り出す。そして、中身を確認するように読むと大輝たちの方へと振り返る。
「ここには清子さんが調べた八ツ森様の全てがある」
そっと本の上を撫でると朔は一呼吸置く。
「清子さんはおそらく、八ツ森様の呪いの解き方の答えにたどり着いたんだ。だから、逆に八ツ森様に目をつけられてしまった」
「なら、おばあちゃんが見つけたものを俺たちで見つけよう」
部屋の中へと踏み出し、大輝は朔のそばによる。本を持っていない方の手を握ると、ひやりとした冷たさが伝わってくる。朔は驚いたように瞬きを繰り返したあと、その手を握り返した。
「そうと決まれば、手分けして探そうじゃない」
やる気に満ちた幸代の声が二人の耳に届く。二人は顔を見合わせて幸代の言葉に小さく頷いた。
そこからは分担して部屋の中を探した。古びた木製の棚を幸代が、山積みになった本を大輝が、そして押し入れの中身を朔が調べることになった。
大輝は手始めに一番上にあった本を手に取ると、中身を確認する。その本はこの土地の歴史が書かれているようだった。
『常世原集落はXXX年前に各地から逃げてきた信徒が集まってできた集落である』
その一文から始まる常世原集落の歴史は興味深い内容だった。信仰心の厚かった人々は、各地で弾圧されこの土地に流れ着いた。元々神を信仰していた人たちが集まってできた集落だからこそ、異様なまでに八ツ森様を信じていることが伺えた。
次に手に取った本は八ツ森様についてまとめてあった。手本のような美しい字で、手紙の字を彷彿とさせた。
『八ツ森様は神ではない。八ツ森様は、私たちの異常なまでの信仰により生み出された、忌み神のようなものなのだ』
その文章のすぐそばには、美しい字とはかけ離れた落書きのような、走り書きがあった。
『八ツ森様の声に応えてはならない。応えたら最後、八ツ森様は過去も未来も、全てを飲み込んでしまう』
「過去も、未来も……?」
本に書かれていることはどれも抽象的て、はっきりとしたことは書かれていない。おばあちゃんがここから何を導き出したのか、この土地や八ツ森様に詳しくない大輝では予想を立てることも難しかった。
大輝は手に持っていた本を閉じると、不意に目に入った本に手を伸ばす。それは、この集落で行われた祭事の記録だった。
『20XX年八月某日。神様への生贄を決める儀式が村で行われた』
そんな一文から始まる内容に、なぜか大輝は引っ掛かりを覚える。鼓動が早くなり、焦る気持ちを抑えながら、一行ずつ丁寧に読み進めていく。
『予定していた、神様との邂逅は滞りなく行われた。人々の祈りに呼応するように、神様は二人の男児らの前に姿を現した』
文章を読みながら、その光景が頭に思い浮かんでくる。
蝋燭が揺れる。白木で組まれた舞台に、二人の子供と大きな影が一つ。一人は怯えるように体を縮こまらせ、震える手でもう一人の子供の裾を掴んでいる。もう一人の子供はその手を小さな手で包み込みながら、勇敢にも大きな影に向かって立ち上がっていた。
『無謀にも、男児の一人が立ち上がり、神様に声をかける』
――八ツ森様の声に応えてはならない。
その掟すら厭わないように。無謀に、そして勇敢に。
『生贄は選ばれた。その生贄の名前は…………』
その先の頁は丁寧に破り取られていた。だが、大輝にはわかるような気がした。
そこに、誰の名前が書かれていたのか。
あの夏、生贄に選ばれたのが誰なのか。
「やっぱり、俺は小さい時、ここで暮らしていたんだ。それで、八ツ森様の贄に選ばれて…………」
そっと、自分の首元に触れると大輝の言葉を肯定するようにチリッとした痛みが走る。
――あそボウ。
無邪気な声がはっきりと聞こえてくる。あの日と同じ声だ。
懐かしく、離れがたいあれらの声は、ずっと贄に選ばれた大輝に向かって話しかけていたことにようやく気がついた。
生贄として選ばれたからこそ、彼らの声が聞こえ、無意識のうちにこの土地に惹かれていたのだ。
気持ち悪く揺れる視界に耐えるように目を閉じる。ゆらゆらと揺れる蝋燭が瞼の裏にこびりついているようだった。
耳元でうるさいほど騒ぐ心臓の音を無視するように、次の本に手を伸ばす。
「また、八ツ森様の記録……?」
先ほどのような手本みたいな字とは打って変わり、全体的に急いで書いたように乱雑な字になっていた。まるで、何かから逃げながら書いたようにも見えた。そして、紙の端には乾いた茶色の染みが残っていた。



