あの夏、神様に選ばれた君へ

 パチパチと火が爆ぜる音が人々の祈りの合間に聞こえてくる。



 ――20XX年八月某日。
 ――神様への生贄を決める儀式が村で行われた。



 
 小さな木造のステージを大人たちが取り囲み、跪いている。ステージの上には白装束を身に纏った幼い子供が二人、この後に何が起きるかもわからずに座っていた。

 森の奥、真っ黒な木々の隙間から、吐息のように温かく、吐瀉物を混ぜたような生臭い香りが二人を包み込む。
 よく目を凝らしてみれば、大きな塊のようなものが、そこにいた。



 ――予定していた神様との邂逅は滞りなく行われた。



 空気が震える。

 肌が粟立ち、カラスが鳴きながら飛び立つ。

 人々の祈りがそれに届いたのか、一際大きく火が爆ぜたかと思うと、一瞬にして全ての蝋燭から灯りが消える。

 暗闇の中で呪詛に似た祈りと、木々が揺れる音だけがその場に流れ続ける。

 しばらくすると、何か大きいものが這いずり回る音が聞こえてくる。


 
 それは骨が擦れるような音。
 それは土を抉るような音。

 
 ザリ、ザリ、ザリ、と耳障りな音が脳を揺らす。




 ――人々の祈りに呼応するように、神様は男児らの前に姿を現した。
 ――その時、無謀にも男児の一人が立ち上がり、神様に声をかけた。



 何か、は二人の前で止まる。



「アソぼう」
「イっしょニ、アソぼウ」
「ボク、たち」
「わ、たしタ、チ」
「ヒトリ、は、サミしい、よぉ」
「だ、カラ」
「アソ、ぼウ」



 子供らしい無邪気な声が暗闇の向こうからいくつも聞こえてくる。子供の声の合間にも、骨と骨がぶつかる音が断続的に続く。

 子供の一人は恐怖で腰が抜けてしまったのか、体を震わせながらもう一人の子供に縋り付いている。縋りつかれた子供は、意を決したように強い決意を瞳に宿すとその場に立ち上がる。


「俺が遊ぶ。だから、こいつには手を出さないで」


 子供の足は震え、手のひらに汗が滲む。

 縋り付いている子供は、驚いたように息を呑む。

 人々が固唾を飲んで何かの反応を伺っている。

 何かはケタケタケタと笑い出す。それは大勢の子供の笑い声だった。



「キみと、アソぶ」
「あっチは、イラ、ない」



 森の奥から一本の腕が伸びてくる。病的なほど真っ白で、暗闇の中でも光を帯びているようだった。

 その腕からは幼い子供の手が何本も生えてきて、立っている子供の前まで伸びてくる。

 その手は優しく子供の頬を撫で、首に印を残す。

 首元には、太い紐でキツく締めたような跡が残る。



 ――神様は生贄を選ばれた。


 ――生贄の名前は…………。




 その先の頁は、丁寧に切り取られていた。