冷血美麗な吸血種への嫁入り

静けさが深まる夜。撫子は真っ暗な蔵の中にいた。一心の視界に入ってしまったことが若葉の口から和子に伝わり、激怒した和子は撫子を蔵の中に閉じ込めたのだ。
夜はさらに冷え込む、くたびれた毛布一枚では寒さはしのげるはずもなく、撫子はぷるぷると震える体を両手で摩りながら、寒さを耐え忍んでいた。風に触れるだけで、腕の火傷が痛む。頬も赤く腫れ、言葉を話そうとするだけで痛い。
外から人の話し声がしたと思うと、蔵の扉が開いた。立っていたのは、和子だった。和子はくたびれた毛布に身を包み、体を震わせるみすぼらしい撫子の姿を見ると、憎らしそうに目を細める。

「汚い……」

そう言い和子は撫子に向かって、丸い缶を投げてきた。缶は音を立てながら撫子の元へ転がってくる。それは化粧道具だった。

「それで、今すぐ痣を隠しなさい」
「……え……?」
「早く!!」

和子の金切りのような声に、撫子は肩をビクつかせると、言われた通りにする。震える手は思うように動かなかったが、撫子は必死に手を動かし、痣を隠した。
和子は痣が隠れたのを確認すると、後ろを振り向く。

「準備ができましたわ。早くこの汚物を連れて行って」

蔵に入って来たのは知らない男だった。それも一人ではない、後ろにも何人かの男がいる。真ん中に立っていた恰幅のいい中年の男は、背中を丸めると顔を近づけ、撫子をじっと見る。

「ほーこれはこれは、汚れてはいるが、良い娘ではないか。人間種だが、磨けばそれなりになりそうだ」

そう言い、恰幅のいい中年の男は下品な笑みを浮かべた。

(この人たちは誰……?? お母様は何をしようとしているの)

「奥さん、本当にいいのかい? この子はあんたらの娘なんだろ?」
「こんな娘なら、いない方がマシよ。……いっそ、死んでしまえばいのよ」
「ハッ……薄情な親だな。ま、俺たち闇商人も、人のこと言えねーが。金は弾んでくれよ」

(闇商人……?? まさか、お母様は私をこの人たちに売ろうとして)

恰幅の良い男は鼻で笑いそう言うと、後ろにいた屈強な男たちに目配せする。屈強は男は撫子の腕を掴むと、力づくで立ち上がらせる。

「い、嫌……」

小さな声でそう呟き怯える撫子に、恰幅の良い男は不敵な笑みを見せる。

「お嬢ちゃん、せいぜい、あの化け物どもに可愛がられな」

そう言った恰幅のいい男の目は、空っぽだった。

「や、やめて……!」

撫子が抵抗を試みるも、食事もまともに取れていない脆弱な体では、抗うこともできない。

「お、お母様……!!」

撫子は決死に叫びながら和子に手を伸ばし助けを乞う。扉に背を預け立っていた和子は、もう撫子を視界にすら入れたくないのか、叫ぶ撫子から顔を背け退屈そうにしている。その姿に、撫子の手が、パタリと下ろされた。
抵抗することをやめた撫子は、あっさりと車に乗せられてしまう。
空に浮かぶ三日月は、撫子に希望を持たせることはできなかった。