冷血美麗な吸血種への嫁入り

撫子の部屋は、離れの屋根裏部屋だ。和子たちがいる屋敷とは連絡通路を通してつながっているが、撫子以外にここに人が立ち寄ることはなく、来客が来る時、撫子は決まってこの屋根裏部屋で過ごす。
元は物置として使われていた屋根裏部屋は、改装の手入れはされておらず、古い建物だけあって、建て付けも悪く、ドアからは隙間風が入ってくる。冬の寒さを感じさせる十一月は、粗末な着物では寒さをしのげない。撫子は布団を肩にかけると、隅に丸く縮こまった。
窓から見える青い空を見上げていると、ぐぅーとお腹がなる音がした。思えば、今日は朝から何も食べていない。和子たちの朝食を用意して、すぐに廊下の雑巾掛けをするように言われ、食べる暇などなかった。

(昨日のうちに言ってもらえれば、こんなに時間がかかることもなかったけど……)

撫子を気遣う人間など、この世界には存在しないのだ。

(あとで、今朝の残りでも食べてお腹を満たそう)

午後になったら、夕ご飯に使う山菜を山に取りに行かなければならない。今の季節は、きのこもあるかもしれない。

「っ……!」

突然、首元の痣が痛み、撫子は顔を顰めた。

(……まただわ)

ここ最近、痣がよく痛む。鋭く尖った何かに噛み付かれたかのような激しい痛みを感じたと思えば、ゆっくりと自分の中に何かが流れ込んでくるかのような、不思議な感覚に陥る。
それは何か、何か大事なことを思い出させようとしているかのようだった。
少しして、痛みは消えた。撫子は片手でそっと、首元の痣に触れる。
この痣がなければ、両親は愛情を与えてくれただろうか。若葉は、妹として少しは慕ってくれただろうか。そんなことを、十九年の人生で、もう何度も自問自答した。
若葉は西園寺様と結婚する。年頃の娘はみんなそうだ。

(私は、一生のこのまま……)

こんな痣がある自分を娶りたいと思う者などいないだろう。ここ以外に自分がいられる場所はない。使用人としてでも、この家においてもらうことができるだけ、ありがたいと思わなければ。