冷血美麗な吸血種への嫁入り

騒ぎを聞き駆けつけると、テラス付近で人の群がりができていた。輪の中心には撫子、そして人間種の女と、吸血種の男がいた。

「撫子……?」

撫子の首元には、蜘蛛の糸のような痣があった。慧は痣を凝視した。

「その痣……」

慧が近づくと、撫子は悲しみに打ちひしがられた顔をして、慧を見上げた。慧に痣を見られたことがショックのようだった。

(まさか……本当にそんなことがあるのか)

「うっ……!!」

撫子の首元の痣に取り憑かれたように見入っていると、慧の心の臓が強く痛み始めた。慧はその場に片手で胸を押さえ、そのまま項垂れるように膝をつく。

「伊集院様……!?」

心配した撫子が駆け寄ろうとするも。

「呪いだ! あの人間種の呪いで、高貴な伊集院様が汚れ始めている!!」

輪の中にいた吸血種の男の発言に、周囲にいた者達は、みな撫子から離れていく。撫子はその場に立ち尽くす。
騒ぎに気づいた和子と遊馬も駆けつけ、若葉を撫子から遠ざける。

「っ……くっ……!!」

(心の蔵が、焼けるように熱い……!!)

すると、撫子の首元の痣が、慧と共鳴するかのように、赤く光る。その光を見て、慧は確信した。

(……そういうことだったのか。俺はあの時、彼女に焦がれたような気持ちを持ったんだ)

苦しみながら立ち上がった慧は、撫子にゆっくりと近づく。撫子を首を横に振り、こっちに来るなと言っているが、慧は迷わず撫子の元へ歩みを進める。
そして、その華奢な身体を引き寄せるとその身が壊れてしまわぬように、力一杯抱きしめた。

「撫子……千年前に戦争で命を落とした、俺の恋人の生まれ変わりだ。俺の運命の番は、お前だったんだよ」
「……えっ……私が、伊集院様の番……??」

慧は撫子に向かって笑みを浮かべ頷く。そしてその場に崩れ落ちてゆく慧に、撫子は戸惑いながらその体を支え、一緒にその場に崩れ落ちていゆく。

「そ、その女は呪われているんです! 早く離れてください!」
「黙れ……!!」

そう言う若葉に、慧はこれまでで見たことないくらいに怒りをあらわにして、そう叫ぶ。その迫力に、若葉は押し黙る。
慧は愛おしそうに撫子の首の痣に触れると、撫子の目に浮かぶ涙をそっと払ってあげる。

「気づくのが遅くなってすまない……」

撫子を真っ直ぐに見つめるルビー色の瞳が、苦しげに揺れる。
いつの間にか、焼けるような心の臓の痛みは治り、慧は着ていたジャケットを脱ぎ、撫子の肩にかけると、立ち上がる。

「よく聞け、愚鈍ども。この人間種は呪われた女などない。伊集院慧、純血の吸血種の運命の番だ」

慧のその言葉に、慧のその言葉に、会場にいたみながどよめく。

「う、嘘だ……純血の吸血種は夢物語だ。存在などしない」

一人の吸血種の言葉に、慧は自分の鋭い爪で腕を切る。慧の腕からだらだらと血が流れる。すると、その血の匂いに、会場にいた吸血種たちの目が獣のように鋭くなる。グルグルと喉を立て、牙を剥き出しし、よだれを垂れ流す者までいる。一心さえもその血に反応し、噛みつきたくなる衝動を抑えようと、自分自身の体を押さえ込んでいる。

「お前たちが喉から手が出るほどまでに欲しがる、この高貴な美麗な血……それが証明だ」

(伊集院様が純潔の吸血種……吸血族の王とされる、あの……そして私は、その王の……番)

吸血種達は吸血欲に耐えながら、一斉に跪き、頭を垂れ下げる。会場にいた全ての吸血種をいとも簡単に服従させる姿は、まさしく、王そのものだった。

「この女に牙を向ければ、俺は容赦なくお前たちに刃を振るうだろう」

慧は、若葉たちに振り向く。

「もちろん、人間種だろうと容赦しない」

冷酷な慧に、若葉たちは身をすくめ、恐怖でガタガタと体を震わした。
そして、慧眼は撫子に振り向くと、跪き、片手を差し出す。

「帰ろう。俺の花嫁」

撫子の頬からまた涙が伝った。撫子は大きく頷くと、慧の手を取り立ち上がる。慧に肩を抱かれ
歩く。出口に向かう途中、慧は足を止めると、撫子には聞こえぬような小さな声で一心の耳元で呟く。

「あの腕の火傷はお前だったんだな。良くも俺の花嫁を傷つけてくれたま。お前には、いずれそれ相応の罰則を与える」

ドスの聞いた声でそう言い、慧のルビー色の瞳がギラリと光る。一心はゴクリと唾を飲み込む。生きた心地がしなかった。
二人が立ち去るまで、会場にいた誰一人として、顔を上げることはなかった。
空には、二人を祝福するかのように、満月が恍惚と輝いていた。