そんな話の後、私たちは一緒に帰路についていた。
結果的に付き合うことになったが、まずは色々聞きだすところから始まっていた。
「狐ってチョコレート駄目らしいけれど、大宮君はどうなの?」
「死にはしないけれど、あまり好きじゃないかな」
「分かった。バレンタインの時に気を付けるね」
「おお、すっごい海外のイベントだ」
「あれ、宗派的にだめ?」
「宗派っていうか、日本古来の妖だからな~…。ま、全然いいけど」
「いいんかい」
どれが大丈夫で、どれが駄目なのかは正直分からない。だから恥を忍んで聞くのが1番だと考えた。
根掘り葉掘り聞くと言えど、嫌なことに関しては答えなくていいと、最初に大宮君に伝えている。自画自賛になるが、なんという親切設計。
「ちなみにさ、女体化ってできるの?」
純粋な疑問に、たまたまジュースを飲んでいた大宮君が噎せた。あ、やば。
「ゲホッ、は、ゲホゴホ」
「ごめん、タイミング間違えた」
「…はい?」
「女体化、できますか?」
「……聞き間違えではなかったと」
変態を見るような目で見られるが、これも配慮の内だ。…あと、単純な興味。
「どこでそんなこと知ったの?」
「『妖狐』で調べたら、昔に女性の化けて人を騙したって書いてあるから…」
インターネットって便利。恨めし気に画面を見ていた大宮君だが、ぼそりと答えてくれた。
「…できる」
「え、ほんと!?じゃあさ、お揃デートとかしようよ!」
「テンション上がらないで~…」
できることをして何が悪い。いやー、人外な恋人最高。
「僕の素はこっちだからね!?」
「大丈夫!どんな姿でも、大宮君なら好きだから」
「何も安心できない言葉をありがとう」
げんなりした様子の大宮君に、サムズアップしておく。
「でも、女性になれるなら温泉デートとかもありだよね!」
「無しだよ。言っておくけど、斎藤さんが高校卒業するまでは手出さないからね」
「え、」
思わず凝視すると、今度こそ訝しげな顔をされる。
「え、じゃないよ。ダメダメ。未成年には手出せないよ」
「じゃあキスも!?」
「キスも」
「キスって接吻のことだよ!?」
「分かってるよ。わざわざ古風な言い方にしなくても通じるから」
「いや、別のことと勘違いしてるかなって」
「してません!たしかに年は取ってるけど、おじいちゃん扱いしないで!?」
全力で拒否されるのが癪に障る。別にいいのに。私はむしろ大歓迎だ。
「っていうか、大宮君も未成年じゃん」
「いや、僕はとっくに成人してるから」
「ここだけ人外要素出してくるとかずるくない?」
「ずるいとかじゃなくない?」
まあいい。今は引いておこう。段々と判定を緩めさせればいい。
「ねえ、美優ちゃん」
「え、はい!」
心の中で怪しく笑っていると、急に名前を呼ばれた。驚きのあまり声が裏返りそうになったが、何とか返事をする。
見上げると、大宮君が照れたように笑っていた。
「あれ、名前…」
「番…ううん。恋人なら、名前呼びになれたいなと思って」
そんな嬉しいことを言ってくれるなんて。
「…好きぃ」
「漏れでてるよ~」
クスクスと笑われるも、抑えが効かない。本当に好きだ。どうかしてしまう。
「僕は?」
「へ?」
「僕のことも、名前で呼んでくれない?」
コテンと首を傾げられる。可愛い。完全に犬だ。そういえば、キツネッて犬科だ。ああ、通りで。
「れ、れんくん…」
「んふふ、うん」
「蓮くーん…」
「何で泣きそうになってるの」
なんか、色んな感情が溢れてくる。なんだろう。
「これが愛かな」
「え、どういうこと?今の瞬間に何を悟ったの??」
一瞬で目を丸くされる。もうすべてが楽しい。
そのまま、大宮君の手を自分の手を結ぶ。すると、大宮君からも優しく握り返された。
人間じゃなくたって、妖狐だって、人外だって、
大宮君は大宮君なのだ。好きになった彼には違いない。
「これからよろしくね、蓮君」
「うん、よろしく。美優ちゃん」
握った手が、どうにも温かくて、どうしようもなく愛おしかった。



