人外な恋人も悪くない


「好きです!付き合ってください!!」

 斎藤(さいとう) 美優(みう)。16歳。
 高校で初めて一目惚れをし、我慢できなくて失恋覚悟で告白しています。

 お相手は、窓側の席でいつも外を眺めている大宮(おおみや)くん。
 外を眺めるか、寝ている所しか見ない、いわゆる無気力系の男の子。

 そんな彼にどうしようもなく惹かれて、日に日に好きになっていった。
 
 だから告白に至った。だって、『命短し恋せよ乙女』なんて言うから…迷っている方が勿体ない。

「えーっと、」
「斎藤 美優です。大宮くんと同じクラスで、1番後ろで廊下から3番目の席にいます」
「大丈夫、知ってるよ。同じクラスだから、さすがに覚えてる」

 テンパって自己紹介をしてしまったが、気味悪がる所か、ふはっと笑われた。ああ、その笑顔も好き。
 
「でもね。悪いんだけど、斎藤さんの気持ちには答えられないんだ」

 ごめんね、なんて申し訳なさそうに謝られる。その優しさに、目が潤んでしまう。ああ、泣きたくなかったのに。

「大宮君が謝らないで…。でも、理由ぐらいは教えて…」

 理由によっては、諦められるかもしれない。
 すでに恋人がいるとか、男性がタイプだとか、熟女が好きだとか…。歪んだ性癖ぐらいなら、付き合えるかもしれないから粘らせてほしいところ。

「……えっと、」
「お願いします!!!」

 言い淀んだ大宮くんに逃げられたくなくて、必死に頭を下げる。

 
 すると彼は、ピクリと反応した。

「『お願い』?」
「お願いします!どんなことでも、絶っ対に他言しないので!!!」
「…ほんと?」
「本当!まじ!がち!絶対!!」

 全力で返事をすると、彼はふにゃりと笑った。

 そして、

「じゃあ、斎藤さんと付き合えない理由を教えるね」

 日が傾く。夕暮れの、人の顔の識別がつかなくなる暗さ。

 【黄昏時】

 そんな言葉がふと、頭をよぎった。
 
 たしか、古典の先生が言っていた。

 
___「黄昏時とは『誰そ彼』と表記されます。あの世とこの世が交わる時間のことを指す場合もありました」



「僕、実は妖狐なんだ。だから人間の斎藤さんとは付き合えない」

 
 大宮君は、相変わらず困ったように笑った。そんな彼の頭には大きな狐耳が、後ろからはふわふわとした尻尾が覗いている。

 現実離れした光景に、何も言えない。いや、っていうか、正直、、

「ごめんね。怖がらせちゃったよね。でも、『お願い』されたら叶えるのが僕たちだからさ。嫌だった記憶を、」
「好き」
「え、」

 堪えきれず、必死に口を手で覆う。そうでもしないと「好き」が溢れて仕方なかった。

 ずるい。ピコピコ動く耳に、見るからにふわふわな尻尾。今すぐにでも触らせてほしいし、ブラッシングもさせてほしい。あわよくば、全力で顔をうずめたい。正直猫派だけど、キツネは別格。好きだ。

「あーもう!諦めようと思ったのに、より一層好きになっちゃったじゃん!どうしてくれるの!?」
「ん?あの、」
「妖狐?だっけ?正直、何か分からないけれど、好きな人に狐耳がついて嫌いな人はいないと思うの」

 困惑している大宮君との距離を詰める。なぜか半歩引かれたが、そんなこと知らない。

「付き合えない理由ってそれだけ?」
「う、うん…」
「申し訳ないんだけど、大宮君が人じゃないぐらいで嫌いにならないから」
「ええー…?」

 逃げられる前に、何とか腕を捕まえる。すると、彼の尻尾は驚いたように揺れた。
 ああ、なんて可愛いんだろう。ストラップとしてほしい。

「もう1回言わせてください。好きです!付き合ってください!!!」

 私からの告白に、大宮君は頬を引き攣らせた。

「い、1回冷静になろうか…」
「私は常に冷静だよ」

 とりあえず、耳と尻尾を仕舞った大宮君と共にベンチに移動した。

 着いて早々、深々とため息を吐かれる。ここまでやっておいてだけど、彼には厄介な奴とは思われたくない。ほら、好きな人の前では可愛くありたいという訳で。

「あのね、こんなことは言いたくないんだけど、やめておいた方がいいよ?」
「なんで?」

 素直に首を傾げると、チラリとこちらを見られた。

「人外には、問答無用で人間を襲う奴もいるんだよ。僕と一緒に居ることで、斎藤さんに危険が及ぶかも」
「うーん…じゃあ、修行してくる!」
「ものすごい方向の打開策だね」

 それならば、と新たに脅される。
 
「ドロドロしたこわーい化け物もいるよ」
「対策さえ分かれば怖くないよ」
「変な怪奇現象に巻き込まれるかも」
「楽しんだ者勝ちじゃない?異世界とか面白そう」

 それ以外にもいろいろ言われたが、すべて返してやった。そんな脅しで屈すると思わないで欲しい。

「僕、本当は16歳じゃないんだよ。もーっと年上。おじいちゃんだけどいいの?」
「全然気にしないよ。年齢よりも性格で選ぶタイプだから。何なら、私は性別も気にしないタイプなの」

 盛大に勝利のゴングを打ち鳴らしたところで、大宮君は頭を抱えた。よし、勝った。
 恨めし気に見上げる大宮君に、Vサインを返す。

「はぁ~~~~~」
「どう?私の本気具合、分かってくれた?」
「とんでもないポジティブさに完敗した。普通は怖がるはずなんだけどな~」

 その言葉に、思わず笑ってしまう。

「一体何なら怖いの?」
「大宮君に嫌われること」

 即答。
 あまりにも早い返しに、一瞬静寂が訪れた。

「あははっ、なにそれ。面白い返しだね」
「本気だよ?本当に嫌われたくない」

 だから、確認しておかないといけないことがある。

「ねえ、…私自身のことは嫌い?」

 恐る恐る聞かれると、一瞬きょとんとされた。それから、優しく笑われる。

「嫌いなわけないよ。むしろ、元気な子だなと思ってた」
「良かったー…。ここで『嫌い』って言われたら立ち直れなかった」

 胸を抑えて息を吐くと、またまた笑われた。以前までは知らなかったが、大宮君は本当はよく笑う。
 こんな場面で新たな一面を知ることになるとは思っていなかった。どんな笑い方も、どんな笑顔も好き。

「本当に僕でいいの?」
「ぇ、」

 大宮君は一通り笑うと、グイっと顔を近づけてきた。その目は、不思議な虹彩をしている。見ているだけで吸い込まれそうだ。

 
「人外だよ?妖狐だよ?…人ならざるものの番になるって、どんな契約よりも重いんだよ?」

 
 その言葉は、直接脳に響くようだった。重くて、深くて、

 
「うん。私だって、生半可な気持ちで告白してないから」

 
 ___なんて愛おしい。

 
 私の言葉に、今度こそ大宮君は嬉しそうに笑った。

「じゃあ、よろしくお願いします」
「っ~~!!! やったー!!!!!!」


 命短し恋せよ乙女。

 斎藤 美優。16歳。
 人外な恋人を、ごり押しで落としました。