「あのー、久登先輩、何してるんですか」
様子のおかしな久登先輩に話しかけるも、その間もブーブーブーブー、スマホがうるさい。先輩の指は今も、ひたすら連打していて、何をしたいのか呆れてしまう。
トーク画面を開いたら、『つまんない』『構って』『さびしい』『あーそーぼー』などなど、かまってちゃんみたいなラインナップの狐スタンプが羅列されていた。
「うわ……ブロック案件」
なんて呟いた途端に、久登先輩からのスタンプがピタリと止んだ。
「え、ちぃちゃんひどーい。俺、そんなことされたら泣いちゃうよ? ブロックされたら、和久に泣きつくからね?」
久登先輩は全く泣いてないくせに、にいちゃんを盾に俺を脅してくる。
こういう時、久登先輩が親友ってのが面倒だ。
「……はぃ?」
「ちぃちゃんってさ、和久には優しいのに、ほんと俺には塩対応だよね〜。差別だ、差別」
ほんの少し、つまらなさそうに久登先輩は口を尖らせた。
「いや、だって、にいちゃんと先輩は違うに決まってるじゃないですか」
この前の土曜日もだけど、ほんと、久登先輩が何を言ってるのかわからない。
にいちゃんと自身を比べる理由が本気で分からなくて、俺は首を傾げた。
「それはそうだけどさー。……ちょっとくらい優しくしてくれても良くない? ワクワクマンシールの交換もしてくれないし。俺はこーんなにも、ちぃちゃんが好きっていうのになぁ」
久登先輩はさらっとそう言った。
俺もふーんと、聞き流せばいいのに。なぜかそこで俺の耳は、その好きという言葉を拾ってしまう。
やたらと顔が良いって罪だ。男同士だってのに、心臓が変な風に跳ねてしまった。
いやいや……でも、こんなの冗談じゃん。
久登先輩はにいちゃん狙いだ。この好きに深い意味なんてあるわけがない。
俺はそう思い直して、ゆっくり口を開いた。
「優しく……は、久登先輩のこれからで、どうなるかは分からないですけど。この前、ワクワクマンチョコ、10個もお礼って置いてったのは久登先輩の方ですよね」
「そうだけどさ〰〰! そこは先輩の顔を立てて、シール交換しましょーで良いんだよぉー」
久登先輩はぶうぶう、文句を言う。
大人びた見た目に反して、なんかちょっと子どもみたいだ。
優等生だったり、飄々としてみたり、大人っぽくも、子供っぽくなる。この人、なんか忙しいな。
「……久登先輩って、もっと飄々としてる印象だったんですけど、意外とポンコツですか?」
「ポンコツ⁉︎ ちぃちゃんが、それ言う? なかなかにひどくない?」
久登先輩はそうは言いながらも、どこか楽しそうだった。
「……まあ、そりゃ……ちぃちゃんの前じゃねー……って、あぁ、いや、なんでもないよー、はっはっは」
最後の方はなんか誤魔化していたけど、その時の俺は何のシールを持ってたっけ……って考えていて、まともに話を聞いていなかった。
俺は仕方なくブレザーの胸ポケットに手を忍ばせて、生徒手帳を取り出した。今朝、学校に来てから引いたばかりのシールを挟んでいたから、それを手に取る。
ブラウニーという、スコットランドの家政妖精だ。ゴブリンの一種で、良い行いをしてくれるのだけど、あからさまなお供えをしたら、すぐ拗ねるらしい。
なんか、久登先輩にちょうどいい気がした。



