「そんなにシール交換したいなら……まぁ、これでよければ、あげますよ。ポンコツって、酷いこと言っちゃったんで」
俺は手元のダイヤ型のシールをそっと、久登先輩に差し出した。すると、先輩は「え……」と声を漏らして、目をぱちくりさせる。
ん、なんか思った反応とは違う?
俺の予想では、久登先輩のことだから「えぇ~いいの~」とか言いながら、受け取ってくれるかと思っていた。
……もしかして、やらかした?
たぶん、そうだ。この反応は、単に俺を揶揄うために、シール交換の話をしただけのような気がする。
そうだよな。俺の趣味なんて、子どもっぽいって言われるし。なんで、素直にシールを差し出そうとしたんだろ。
久登先輩は、口では揶揄ってくるくせに、俺の好きなものは否定しない人だってどこかで思ってたのかもしれない。
ワクチョコだって、俺にくれたけど、箱買いしてくれたし。あの時はちょっと態度悪くしちゃったけど、あとからじわじわと嬉しさが込み上げてきた。
だから、今の反応……ちょっとだけショックだった。クリスマスの時に、久登先輩からにいちゃんのことを、恋愛的に好きなの? って聞かれた時くらい、胸がざわつく。
急に恥ずかしくなって、先輩の顔が見れなくなった。
「いらなかったなら、別にいいですけど」
無意識のうちに、拗ねたみたいな言い方になってしまった。
俯いて、生徒手帳に戻そうとした、その瞬間。俺の手から、ブラウニーが消えた。
消えたというか、掻っ攫っていかれたような感じだった。鷹が小動物を捕まえるみたいな、一瞬の出来事。
「いや、いるいるー! ちぃちゃんがくれるものなら、なーんだっているから」
久登先輩の喜ぶような跳ねた声が降ってきて、俺はバッと顔を上げた。
「えー、もうさぁ、俺のためにシールくれるって、ちぃちゃん優しすぎない? あーもう……今日の俺、運使い果たしたかも」
視界に映る久登先輩は、ブラウニーのシールを手に乗せて、相好を崩していた。口元をニヤニヤさせて、いつになくご機嫌だ。
でも、ブラウニーはレアシールじゃない。ノーマル中のノーマルだ。しかも、ノーマルの中でも封入率が高くて、土曜日に先輩がくれた10袋のうち、3枚もそうだった。
俺って、最悪かもしれない。こんなに喜んでくれるのに、希少性のないそれを渡すなんて。
ましてや、久登先輩にちょうどいいって……。
申し訳なさが腹の奥から込み上げてきて、俺はおずおずと聞いていた。
「ほんとに……それ、いるんですか? ブラウニーはレアキャラでもなんでもないですよ」
「んー? レアじゃなくても、嬉しいよ。何の妖精なのかは分かんないけど、なんか、うん。可愛いし」
久登先輩はそう言って頷くと、ブラウニーを愛でるみたいに、優しく表面を撫でた。
そんな風に喜ばれたら、嬉しくなる。なんだろうな。別に俺はブラウニーじゃないのに、どうしよう。先輩の指先がブラウニーを触る度に、胸の辺りがくすぐったい。俺とシールが連動しているみたいだ。
さっきまで感じていたモヤモヤが、どこかに消えていくような気がする。
俺はいつの間にか、口元を緩めていた。
「……可愛いですか? それ」
俺がそう言うと、久登先輩は「可愛い、可愛い」と噛み締めるような返事をしてくれる。
「ほら、なんかちっさいし。可愛くない?」
久登先輩はゴブリンと見た目がほとんど同じブラウニーを、顔の横に掲げてみせた。
ブラウニーは、久登先輩の綺麗な顔面と比べたら、月とスッポンのように見える。
だけど、久登先輩が可愛いと言い切るものだから、とんでもなく可愛い生き物なのかと、錯覚してしまう。
これまでハズレ枠だと思っていた彼が、レアシールのように見えてきて、不思議だった。
そんな久登先輩とブラウニーを見ていたら、俺はあることに思い至った。
久登先輩は、ブラウニーをちっさくて可愛いと言った。
そんな久登先輩は、身長が180センチ半ばあるのだ。この人からしたら、大体のものは何でもかんでも、小さい。
となれば、平凡な俺も、先輩の中にある『可愛い』のカテゴリーに分類されるんじゃないかって。
思わず、俺は「そういうことか」って呟いて、くすくすと笑ってしまった。
「え、何? 俺、なんか変なこと言った?」
「いや、久登先輩からすれば、俺を可愛いって言うのもブラウニーと一緒かって納得しました」
俺は本当のことを言っただけだ。
でも、久登先輩はブラウニーを見つめながら「ねぇ、ブラウニー……。ちぃちゃんって、ほーんと鈍すぎるよね」なんて、口にしている。
そうは言われても、俺の何が鈍いのかは分からない。
むしろ、にいちゃんと久登先輩が両想いだって、気づいているくらいなのに。
けど、それから、にいちゃんが弁当箱を持って戻ってくるまでの間、散々だった。
久登先輩は「ほんとちぃちゃんってば困ったちゃんだね〜」「いつ自覚するかなぁ」と、文句ばっかりだ。
なんで俺が怒られてるみたいになってんだ。そんなに言うなら、俺のどこが悪いのかはっきり教えてくれたっていいだろ。
この時ばかりは、久登先輩を睨みつけたくなった。
だけど、この時の俺にとって久登先輩はまだ、ただの変な先輩でしかなくて。
どうしてブラウニーのシールであんなに嬉しそうだったのかも、俺に鈍いと言ったのかも、俺はその理由を考えようともしなかった。
ただ、一つ言えるのは、久登先輩は猫かぶりでも、なかなかに良い先輩なのかもしれないということだ。
……恥ずかしくて、絶対に本人には言えないけど。
俺は手元のダイヤ型のシールをそっと、久登先輩に差し出した。すると、先輩は「え……」と声を漏らして、目をぱちくりさせる。
ん、なんか思った反応とは違う?
俺の予想では、久登先輩のことだから「えぇ~いいの~」とか言いながら、受け取ってくれるかと思っていた。
……もしかして、やらかした?
たぶん、そうだ。この反応は、単に俺を揶揄うために、シール交換の話をしただけのような気がする。
そうだよな。俺の趣味なんて、子どもっぽいって言われるし。なんで、素直にシールを差し出そうとしたんだろ。
久登先輩は、口では揶揄ってくるくせに、俺の好きなものは否定しない人だってどこかで思ってたのかもしれない。
ワクチョコだって、俺にくれたけど、箱買いしてくれたし。あの時はちょっと態度悪くしちゃったけど、あとからじわじわと嬉しさが込み上げてきた。
だから、今の反応……ちょっとだけショックだった。クリスマスの時に、久登先輩からにいちゃんのことを、恋愛的に好きなの? って聞かれた時くらい、胸がざわつく。
急に恥ずかしくなって、先輩の顔が見れなくなった。
「いらなかったなら、別にいいですけど」
無意識のうちに、拗ねたみたいな言い方になってしまった。
俯いて、生徒手帳に戻そうとした、その瞬間。俺の手から、ブラウニーが消えた。
消えたというか、掻っ攫っていかれたような感じだった。鷹が小動物を捕まえるみたいな、一瞬の出来事。
「いや、いるいるー! ちぃちゃんがくれるものなら、なーんだっているから」
久登先輩の喜ぶような跳ねた声が降ってきて、俺はバッと顔を上げた。
「えー、もうさぁ、俺のためにシールくれるって、ちぃちゃん優しすぎない? あーもう……今日の俺、運使い果たしたかも」
視界に映る久登先輩は、ブラウニーのシールを手に乗せて、相好を崩していた。口元をニヤニヤさせて、いつになくご機嫌だ。
でも、ブラウニーはレアシールじゃない。ノーマル中のノーマルだ。しかも、ノーマルの中でも封入率が高くて、土曜日に先輩がくれた10袋のうち、3枚もそうだった。
俺って、最悪かもしれない。こんなに喜んでくれるのに、希少性のないそれを渡すなんて。
ましてや、久登先輩にちょうどいいって……。
申し訳なさが腹の奥から込み上げてきて、俺はおずおずと聞いていた。
「ほんとに……それ、いるんですか? ブラウニーはレアキャラでもなんでもないですよ」
「んー? レアじゃなくても、嬉しいよ。何の妖精なのかは分かんないけど、なんか、うん。可愛いし」
久登先輩はそう言って頷くと、ブラウニーを愛でるみたいに、優しく表面を撫でた。
そんな風に喜ばれたら、嬉しくなる。なんだろうな。別に俺はブラウニーじゃないのに、どうしよう。先輩の指先がブラウニーを触る度に、胸の辺りがくすぐったい。俺とシールが連動しているみたいだ。
さっきまで感じていたモヤモヤが、どこかに消えていくような気がする。
俺はいつの間にか、口元を緩めていた。
「……可愛いですか? それ」
俺がそう言うと、久登先輩は「可愛い、可愛い」と噛み締めるような返事をしてくれる。
「ほら、なんかちっさいし。可愛くない?」
久登先輩はゴブリンと見た目がほとんど同じブラウニーを、顔の横に掲げてみせた。
ブラウニーは、久登先輩の綺麗な顔面と比べたら、月とスッポンのように見える。
だけど、久登先輩が可愛いと言い切るものだから、とんでもなく可愛い生き物なのかと、錯覚してしまう。
これまでハズレ枠だと思っていた彼が、レアシールのように見えてきて、不思議だった。
そんな久登先輩とブラウニーを見ていたら、俺はあることに思い至った。
久登先輩は、ブラウニーをちっさくて可愛いと言った。
そんな久登先輩は、身長が180センチ半ばあるのだ。この人からしたら、大体のものは何でもかんでも、小さい。
となれば、平凡な俺も、先輩の中にある『可愛い』のカテゴリーに分類されるんじゃないかって。
思わず、俺は「そういうことか」って呟いて、くすくすと笑ってしまった。
「え、何? 俺、なんか変なこと言った?」
「いや、久登先輩からすれば、俺を可愛いって言うのもブラウニーと一緒かって納得しました」
俺は本当のことを言っただけだ。
でも、久登先輩はブラウニーを見つめながら「ねぇ、ブラウニー……。ちぃちゃんって、ほーんと鈍すぎるよね」なんて、口にしている。
そうは言われても、俺の何が鈍いのかは分からない。
むしろ、にいちゃんと久登先輩が両想いだって、気づいているくらいなのに。
けど、それから、にいちゃんが弁当箱を持って戻ってくるまでの間、散々だった。
久登先輩は「ほんとちぃちゃんってば困ったちゃんだね〜」「いつ自覚するかなぁ」と、文句ばっかりだ。
なんで俺が怒られてるみたいになってんだ。そんなに言うなら、俺のどこが悪いのかはっきり教えてくれたっていいだろ。
この時ばかりは、久登先輩を睨みつけたくなった。
だけど、この時の俺にとって久登先輩はまだ、ただの変な先輩でしかなくて。
どうしてブラウニーのシールであんなに嬉しそうだったのかも、俺に鈍いと言ったのかも、俺はその理由を考えようともしなかった。
ただ、一つ言えるのは、久登先輩は猫かぶりでも、なかなかに良い先輩なのかもしれないということだ。
……恥ずかしくて、絶対に本人には言えないけど。

