「あのさ、千茅くんって、そういう意味で和久のことが好きなの?」
「………………は? そういう意味?」
久登先輩からの唐突な質問に度肝を抜かれて、俺の反応は遅れた。
「うん。和久のこと、恋愛的な意味で好きなの?」
久登先輩は今度は濁さず、ハッキリと口にした。
俺は自他共に認めるブラコンだ。
にいちゃんのことが大好きなことに関しては、昔から周りにもよく、色々と言われてきた。
中学の頃なんて、揶揄い半分、久登先輩と同じようなことを聞いてくるヤツもいたっけ。
でも、邪推する人がいても仕方がないのかなと思う節はある。
何せ、俺とにいちゃんは、血が繋がっていない。小5の頃、母の再婚で突然、兄弟になった。そんなにいちゃんに、あまりに懐いているから、余計にそう思う人もいるんだろう。
でも、なんで皆、俺の気持ちを勝手に決めつけるんだよ。
確かに、出会った頃からにいちゃんは、俺にとってはずっと憧れで、大好きな人だ。家族の中で一番安心できる存在だと思う。
だけど、いくら血が繋がっていなくても、恋愛感情なんて、一度も持ったことがない。
男子校だからか、三年や二年の先輩の中には、男同士で付き合ってる人がいるのは知ってる。
でも、にいちゃんは、にいちゃんだ。
俺たちを、意図しない関係に当てはめて欲しくない。
俺は、にいちゃんの親友ってだけで、勝手に久登先輩に親近感を持っていた。大事な人の友達なら、俺にとっても大切な存在だと思うし。
だから、久登先輩にそんな風に言われたのが、どうしようもなくショックだった。
俺が純粋ににいちゃんを慕う気持ちを、邪なもののように捉えられている気がして、我慢ならなかった。
「何、言ってるんですか? いくら義理の兄弟だからって、勝手にそんなふうに思われるの、心外なんですけど」
俺はギュッと握り拳を作って、これまで出したことないくらい低い声でそう吐き捨てた。即座に立ち上がって、すぐにリビングを飛び出す。
俺の背に向けて、久登先輩がめちゃくちゃ謝ってきたような気がする。だけど、先輩に言葉を吐いた時に、向こうがどんな顔をしていたのかも、何て言ってきたのかも、俺は怒りに塗れていたから覚えてはいない。
ただ、あの時は腹が立ちすぎて気づかなかったけど、後から考えたら、たぶん先輩のアレは、俺への牽制だったのかも……と、思う。
いや、たぶんじゃなくて、きっとそう。
俺が見る限り、二人はやたら距離が近いし。にいちゃんなんて、儚い美少年みたいな顔してるし。
そんな可愛いにいちゃんが隣にいたら、恋に落ちても仕方ないと思う。
……だからって、俺たちの仲を疑うなよって話だけど。
そんなこんなで、俺が恋のライバルじゃないって分かったから、久登先輩は弟から攻略してやろうとでも、考えたのかもしれない。
俺はあの日、何のスイッチを押してしまったのか。久登先輩は俺の前では、別人のようになってしまった。
変に距離を詰めてくるわ、ちぃちゃん呼びしてくるわ、散々だ。
俺と仲良くなってにいちゃんとの仲を取り持ってもらいたいなら、逆効果でしかないのに。



