【NEW‼︎】あなたが出品されました

 電車の規則的な揺れが、ゆりかごみたいに心地よかった。

 窓の外は、冬晴れの青空が広がっている。
 私はシートに深く身を預け、流れる景色をぼんやりと眺めていた。

 久しぶりの実家は、天国のようだった。
 お父さんは相変わらず無口だけど、駅まで車で迎えに来てくれたし、私の好きなショートケーキを買ってきてくれていた。

 お母さんは、私が「ストーカーが怖い」と泣きつくと、一晩中背中をさすって話を聞いてくれた。

『大丈夫よ。ミナミは、私が守ってあげるから』

『変な奴が来たら、お父さんが追い払ってやる』

 その言葉が、どれだけ心強かったか。
 お母さんの手料理を食べて、実家の匂いのする布団で眠って。

 たった一泊しただけで、張り詰めていた神経が嘘みたいに解けていった。

「やっぱり、考えすぎだったのかな……」

 落ち着いて考えてみれば、M氏のメッセージも、単なる悪質なイタズラだったのかもしれない。
 あの管理人が怪しいのは変わらないけど、実家に帰ったことでリフレッシュできたし、これからはもっと戸締まりをしっかりしよう。

 それに、いざとなったら帰れる場所がある。
 それが分かっただけで、足取りは軽かった。
 スマホを取り出す。

 ユカに謝罪のLINEを送ろうかと思った。
 昨日は取り乱して、きちんと向き合えなかった。
 冷静になった今なら、ちゃんと話せるはずだ。親友なんだから分かってくれる。

 と、その時。
 ポーン。

【バイバイ】の通知音。
 ビクッとして指が止まる。

 車内の空気が、一瞬で凍りついた気がした。
 心拍数が、跳ね上がる。

 嘘でしょ。
 M氏だ。

 まだ、終わってなかったの?
 恐る恐る画面を見る。
 出品通知。

 今度は何?

 ――あ。

 思考がフリーズする。
 サムネイル画像に写っていたのは、黄ばんだ古い紙切れだった。

   *

【商品画像】

商品名:
小学6年生の通知表(原本)
価格:
¥ 1980円(送料込み)
説明:
すべて『5』で統一できなかった過去の汚点。
努力ができない人間は本当に価値がないと思いませんか?購入して、反面教師にどうぞ。
ちなみに、唯一の『4』は図工です。

   *

「……え?」

 声にならない悲鳴が漏れた。
 車内の視線が少しだけ集まるが、気にする余裕なんてない。


 この通知表。
 図工が『4』。苦い記憶。
 もしかして、私の通知表だろうか。

 背筋に冷たいものが走る。
 まさか、M氏は私の部屋だけじゃない。
 実家まで監視していた?

 いや、違う。
 実家に侵入なんてできない。お父さんもお母さんもずっと家にいたんだから。

 じゃあ、誰が通知表を出せる?
 お父さんがお風呂に入っている間に?
 お母さんが買い物に行っている間に?
 学校にある保管用だろうか。

 電車の揺れが、急に不気味な振動に変わる。

 パニックで過呼吸になりそうになる。

 ――本当は巻き込みたくなかったけれど。
 
 私は震える指で、LINEの友達リストをスクロールした。

『ケント』

 付き合って三ヶ月の、今の彼氏。
 心配かけたくなくて、ストーカーのことは言っていなかった。重い女だと思われたくなくて、相談できなかった。

 でも、もうなりふり構っていられない。
 私は祈るような気持ちで、通話ボタンを押した――。